「リアルな青春小説」…ではない!
1年ぶりの住野よるさんの新作ということで,本当に心待ちにしてました。
以前2本ブログでも紹介したとおり,住野よるさんの新作「青くて痛くて脆い」は,電子書籍雑誌「月刊カドカワ」で発表されたものだそうです。
私自身は単行本として初めて読んだのですが,この記事でも紹介した書評によると,
「大学生の男の子を主人公に、“唯一と思える存在”に出会う喜びと、その先に起こりうる青春の終わりを描いた小説です。」
とされていました。
また,その書評が書かれている部分の小見出しは,
「ファンタジー色の強い過去作と一線を画す,大学生を主人公としたリアルな青春小説」
となっています。
この,
「リアルな青春小説」
というくくり…。
読了後の私個人的には,全く適切ではないと考えます。
むしろ,ファンタジー色は非常に強かったものの,前作『か「」く「」し「」ご「」と「』の方が,「心情のリアルさ」は強烈に,しかも瑞々しく描かれていました
個人的には,あくまでも個人的にはですが,本作「青くて痛くて脆い」は,これまでの中でもダントツの「凡作」になってしまったと考えます。
「住野節」は堪能できるも…
それでは,自分なりに感じたことを思いつくままに書かせていただきます。
多少の「ネタバレ」も含まれますので,まだ読んでいらっしゃらない方はご注意を!
①「住野節」は健在!
「住野作品」といえば,その独特な「絡みつくような」文章表現でしょう。
直近の前後の文章との癒着具合,意図的に仕組まれた伏線としての絡み具等,他の作家さんの文章と比較しても,その「密着度」「粘着度」が非常に強固だと感じるのです。
その典型が前掲した『か「」く「」し「」ご「」と「』ですね。各章ごとの,かつ各章間との繋がりそのものに作品としての価値があると言っても過言でないほどの文章構成でした。
私は,これはもはや「住野節」とも言える表記だと勝手に考えています。狙ってできるものではないでしょうから,正に天性の作風なのではないでしょうか。
この点に関しては本作「青くて痛くて脆い」でも十分に堪能することができます。
②全体の文章構成に関して
「住野作品」の特徴として,終末に向けスピード感が一気に増し,急展開だったり,大どんでん返しが起こったりするという,異様なほど高揚感を味わえるという点が上げられるでしょう。「君の膵臓をたべたい」など,正にその典型です。
しかし,その「終末に向けての一気感」を下支えするのが,序盤から中盤にかけての「必要感ある」描写であるはずです。その点が本作には欠けているんですよね〜。
最も気になるのは,「モアイ崩壊をもくろむ田端の思いと,その攻撃行動」に中盤の多くの分量が割かれていることです。
読了してみると,はっきり言ってこの部分にはたいした重みはありません。「モアイ」を攻撃するということであれば,ネットを介した攻撃であろうが,他の手段であろうが,なんでも構わないわけです。また,後述する「間に合わせの人間関係」を描くためという観点を除けば,董介とポンちゃんの登場意義さえも感じられません。
つまり,「終盤への加速」の下支えとなるものが非常に希薄であるとともに,物語の構成の必要感そのものさえ疑問視されるほど,「中盤の描写が退屈」なのです。
正直,住野作品を読んでいて「眠たくなった」のは本作が初めてでした。少なくとも中盤までは…
しかし,本作のキモとなる主人公「田端」と「秋好」との関係性および,「モアイ」の意義。ここに関してはまずまず納得できる描き方となっており,住野さんのセンスのよさは健在です。
もっと「田端」と「秋好」の感情のずれの経緯を掘り下げた方が,終盤に向けた田端の「後悔の念」「秋好とのすれ違い」ということがクローズアップできたはず。残念です。
③テーマに関して
本作は,前掲した書評ページに書かれているような「リアルな青春小説」ではありません。もっとドロドロした,おどろおどろしさをもった「精神的な」小説です。
更に言えば,「就職を前にした大学生」という設定自体にも,必要感は全くありません。そもそも相手への「執着」「愛情と憎悪」「嫉妬と復讐」「気付きと後悔」といったことを通して自己を見つめる話ですので,場面は中学での高校でもいいでしょうし,社会人の話でも全然いけるのです。
ここも,本作のテーマ設定の弱さですよね。たまたま「就活」の場面を舞台にして田端と秋好の思いのズレを描いているだけ…という範疇に収まってしまっているのです。
本作の中心として考えられているのが,物語終盤に出てくる,
「人は人を,間に合わせに使う」
という考え方です。
田端と秋好,田端と董介・ポンちゃん。特に董介とポンちゃんに関しては,田端にとって正に「間に合わせ」の関係となってしまいます。今現在親しくしているからといって,それが本当の意味での信頼関係によるものではないかもしれない…。この点については興味深い考え方だと感じました。
意外だったのは,川原との関係ですね。
当初は薄っぺらだった田端と川原が,徐々に分かり合い,最終盤では田端の再生に一役買う川原。田端と秋好のその後も気になるところです。
脆さについて
本作の表題は,「青くて痛くて脆い」です。
「青い」「痛い」に関しては,秋好を描く際の言葉として文中に多用させています。まあ,秋好を通して,田端も,そして我々も「青くて」「痛い」存在だと言いたいのでしょう。
しかし,「脆い」という表現は全く登場しません。
脆い…
「友情なんて…」「信頼関係なんて…」「自分の信条なんて…」「愛情なんて…」「憎悪や復讐の感情さえ…」「自分の思い込みも…」
今の自分自身が「正しい」と思っていること,自分を支えている骨子となっていること,その全てが実は「脆いもの」であり,物事の「真実」は,それらが脆くも崩れ去らないと見えて来ないものなのかもしれません。
テーマとしては非常におもしろいところを突いているだけに,
「実に惜しい…」
という思いが強いですね。
次作はぜひ,濃〜い,粘っこ〜い,それでいて腑に落ちる作品を期待しています。
★追記★