カスタム/CUSTOM/でいこう😎

50おやじが,お気に入りについて気ままにつぶやくページです。

東野圭吾「魔力の胎動」〜ガリレオ的科学推理+新参者的人情話で気持ちよく読める短編集〜

ラプラスの魔女」とは書き味が違う!

 東野圭吾さんの最新刊「魔力の胎動」が発売されました。
 そもそもこの本は,以前に発刊された「ラプラスの魔女」の前日譚としての意味合いをもつとして発表されていましたが,読了後の印象は全く異なるものです。

f:id:es60:20180325140615j:plain


 もちろん「ラプラスの魔女」の主要人物である「羽原円華」が主人公となって事件を解決していくわけですが,その解決の仕方があくまでも周囲の環境を科学的に分析した論理的なもので,「空想的」で現実離れしたものは全くありません。

「空想科学ミステリと銘打った,前作のような書き味だったらどうしよう…」
という個人的な心配は全くの杞憂に終わりました。

 東野ミステリーとして,純粋にお薦めできる出来になっています。

 

ガリレオ+新参者」の東野的魅力

 まずほっとしたのは,前作「ラプラスの魔女」で色濃く出てきた「脳科学」「脳手術」という観点が殆ど無く,純粋に円華の鋭い科学的推理の下に事件が解決されていくという文章構成になっていることです。

 「ラプラスの魔女」の前日譚ということですので,恐らくこの段階で円華には父親からの手術が施されているのだと予想されますが,そのようなくだりは全く記述されて折らず,純粋に科学ミステリーとして楽しむことができます。
 これ,大正解だと思います。

 

ガリレオ的科学ミステリー

 「科学ミステリー」と聞くと,東野ファンであれは「ガリレオシリーズ」を思い浮かべるでしょう。
 ガリレオシリーズは,湯川博士専門の「物理分野」をもとに,そのトリックを暴いていくことになります。まあ,少々強引なこじつけもありますが,東野ファンも納得ので気になっているものが多いのではないでしょうか

 今回の「魔力の胎動」は,大学教授の筒井が専攻する「流体工学」と,円華が独特の感性を発揮する「気候,地形」等を総合的に捉える力とが絡み合いながら,人々が生きる上で直面している謎を解明しています。
 「トリック」ではありません。ここが,ガリレオシリーズとの違いです。

 本書は,5つの短編が集まってできています。もちろん登場人物の繋がりはあるのですが。
 このうち前半の4つは,ラプラス前を描いた独自の構成。5つ目はラプラスへと繋がる序章となります。個人的には5つ目は必要なかったかな…。

各章で描かれているのは…
〇第一章 落ち目のスキージャンパーが勝利するためには?
〇第二章 プロ野球のナックル投手のボールを受けるキャッチャーを育成するためには?
〇第三章 川に流された息子を救う術はあったのか?
〇第四章 盲目の音楽家のパートナーは自殺か? 事故死か?
というストーリー。

 どれも,「流体工学」「気候,地形等の条件」などが作用する話題であり,それらを円華が見事に解決していきます。
 ガリレオほどの切れ味ある描き方ではありませんが,緩いミステリーものとしては十分楽しめます。

 また,後述する「人情もの」的な要素が,この「緩さ」を生かすことになってるのです。

 

②「新参者」的人情ストーリー

 個人的に,「新参者」が大好きです。
 濃密な推理ものでありながら,各所に「人間としての情」が描かれているからです。

f:id:es60:20180325140026j:plain

 実は本作にも,この「人情もの」的な要素がたっぷりと盛り込まれており,好感がもてます。

 ①でも書いたとおり,第四章までは,それぞれに登場する人物が人生の岐路に立っています。しかも,それらは個人的なものではなく,家族,職場の同僚,パートナーなど,全てが相手をおもんばかったものばかり…。
 自分を殺してでも相手を尊重しようとするあまり,苦しんでいる人々の葛藤が描かれています。
 それらの悩みを円華が解決する…。この小気味よさなんですよね。本書の魅力って。
 そこには,「ラプラスの魔女」で感じたようなうさんくささは皆無です。

 なんか,むりくり「脳科学」に向かわなくてもよかったんじゃないか…とも思うのですが,皆さんはどのようにお考えでしょうか? 

 

 というわけで,本作は,ラプラスがらみで捉えて楽しむもよし,単体として捉えて読むもよしの良作となっています。

 是非皆さんも読んでみてください。 

魔力の胎動

魔力の胎動

 
新参者 (講談社文庫)

新参者 (講談社文庫)