ハードボイルド系からの転身を果たす垣根涼介
垣根涼介さんといえば,当初,「強奪のプロ」柿沢と桃井の痛快な活躍を描いた「ヒートアイランドシリーズ」や,ベトナム,ブラジル,コロンビアなどを股にかけた復讐劇などを描いた「ゆりかごで眠れ」「ワイルド・ソウル」等のハードボイルド系の作品を数多く手がけました。
私も,「ヒートアイランド」(1作目)を読んで衝撃を受け,垣根さんの本をむさぼるように読んでいた時期がありました。それほど人を引きつける文章を書く作家さんです。
その後,「君たちに明日はない」シリーズでは,リストラ請負人村上を通して,人間と仕事に関する人情の物語も手がけるなど,その作風を変化させてきたように感じています。
そして最近では,「光秀の定理」「室町無頼」などの歴史小説に重きを置いているようです。
そんな垣根さんの最新刊,「信長の原理」が,8/31に発売されます。
新感覚の垣根流時代小説
「光秀の定理」は,食い詰めた兵法者・新九郎,辻博打を生業とする謎の坊主・愚息,そして名家の出ながら落魄しその再起を図ろうとする明智光秀が出会い,互いの生き様を交わし合う様子が描かれています。
特に,愚息の「確率的には1/2なのに,なぜか常勝する」という路上博打が物語の大きな伏線となっており,その後の光秀の人生の選択にも影響していきます。
物語の中に大きな戦乱が描かれているわけではありませんし,光秀と信長の関わりや軋轢などが中心となっているわけでもありません。
あくまでも光秀の生き方・考え方の下支えとなる部分を形取ったものは…という思想的,信条的部分がキモとなっているのです。
私,時代物は殆ど読みませんので(「光秀の定理」も垣根さんの作品だからということで手に取りました),よくわかりませんが,この書きぶりって結構異質なのではないかと考えます。
正に「垣根流,新感覚時代小説」といえるのではないでしょうか?
そして,本作「信長の原理」は,その時代小説第3作となります。
角川書店の「小説 野性時代」に2016年8月号から連載されていた模様。
Amazonの作品紹介には,
「何故おれは、裏切られ続けて死にゆくのか。信長と家臣団の全てを解く衝撃作
どんなに軍団を鍛え上げても、必ず落ちこぼれる者が出てきてしまう――信長の疑問と苦悩を解く鍵は、蟻の観察にあった。原理で「本能寺の変」の謎に終止符を打つ、ベストセラー『光秀の定理』に続く革命的歴史小説!」
とあります。
「蟻の観察」から疑問と苦悩を解く…というテーマ性からしても,「光秀の定理」と同様の信長の内面,信条面の構築をテーマとするものになるのではないでしょうか。
「光秀→信長」という流れもなかなかいいですね。今から発売が楽しみです。
★追記★
読了しました。