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三秋縋「君の話」読了〜三秋ワールド炸裂の「絶望」と「希望」の物語〜

久しぶりの「三秋ワールド」,堪能しました!

 2016年9月に発売された「恋する寄生虫」以来,作品の発表がなかった三秋縋さん。待ちに待った新作が,早川書房から発売されました。

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 その「君の話」,読了しました。
 いや〜,堪能できましたよ,「三秋ワールド」。そして再認識しました。
「この人の才能,すごいぞ!」
と。

 以前の紹介記事でも書かせていただきましたが,三秋さんの作品はどれもそこはかとなく哀しく,絶望的なエンディングを迎えることが殆どです。しかし,そのエンディングには何かしらの希望が散りばめられているんですよね。

 そして今回の「君の話」。持ち前の「世界観」は変わらず,しかも三秋さんの筆力の向上ぶりをひしひしと感じることのできる力作となっています。

 

人間にとって「記憶」とは?

 本作,本質的な部分でのネタバレをすると先入観にまみれてしまって,楽しむことができなくなってしまうと思われますので,書ける範囲でほどほどに紹介していきたいと思います。よって,回りくどいかき回しになってしまうかもしれませんが,ご容赦を。
 なんせ三秋さんの作品自体,観念的な部分が非常に大きいので,紹介するのも難しい!

 

 本作,そのテーマはズバリ「記憶」です。
 そして舞台は,世界中に蔓延した新型アルツハイマー病の治療を目的としてナノテクノロジーによる「記憶改編技術」が発展した世界。

 記憶改編によって植え付けられた偽の記憶は「義憶」,また,記憶の中に植え付けられた架空の人物は「義者」と呼ばれています。

 記憶改編のために服用する「ナノロボット」には様々な種類が存在します。たとえは…

・架空の妻との思い出を植え付ける「ハネムーン」
・架空子どもとの思い出を植え付ける「エンジェル」
・一定期間の記憶を消し去る「レーテ」
・架空の青春時代を提供する「グリーングリーン」等々…。

 これらの世界観を,特段の意図的な説明もなしに読み手に納得させてしまうあたり,三秋さんの「ただ者ではない」雰囲気を感じさせられます。
 一気に物語に引き込まれていく感覚なのです。

 

 本作では,天谷千尋夏凪灯花という2人の男女が主人公として描かれていきます。
 前段は「天谷視点」で,後段は「夏凪視点」での描写。「夏凪視点」はいわば「種明かし的」な意味合いをもっており,すべてを知った2人がどのような決断を下すか…ということが本作の醍醐味となっています。

 話は天谷が「グリーングリーン」を服用するところから始まるわけですが,もうすでにこのこと自体が「伏線」となっています。物語の展開そのものも,相当に練られていますよ!
 そして天谷の記憶の中にいる夏凪の存在とは?…序盤は謎が謎を呼ぶ展開ですね。

 物語全体を通して,
「人間にとって大切なことは何か?」
「人間にとっての記憶の意味合いは?」
「恵まれない記憶をもつ人間に救いはあるのか?」
という,人間と記憶との関わりに視点を置きながらも,最終的には,
「今の自分,これからの自分ができること」
「過去の自分を乗り越えるためには?」
という,現在の,そして未来の自分を見つめようとする展開へと繋がっていきます。

 登場する2人のやり取りを読みながら,ついつい「自分にとっての記憶とは…」などと,ちょっとセンチになって考えたりしてしまいました。

 

「希望色の」濃い良作!

 三秋作品ですので,「希望」に行き着くためには多くの「絶望」を乗り越えなければならない展開になっています。しかし本作は,これまで以上に「希望色の濃い」作品になっていると感じました。

 また,絶望へと向かう過程の葛藤や,本当に大切なものへの気付きについて,実に繊細にそして,これまでの作品以上に深みをもたせて描かれています。

 個人的にはすでに「ライトノベルの範疇」は超えていると考えます。設定が「架空の」という点はありますが,書かれる文章の重み,展開の在り方,テーマへのアプローチの仕方等,純文学というくくりで考えてもいいほどの完成度ではないかと思うのですが…。

 

 いや〜,ますます三秋さんのこれからが楽しみになってきました。
 次回作は2年も間を開けることなく発表されることを強く願っています。本当にお薦めの作品です!
 まだ三秋作品を手に取ったことのない方にこそ読んでいただきたい!

君の話

君の話

 

 

 

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