湊かなえさんの「挑戦作」,ブロードキャスト
以前本ブログで,湊さんの「未来」に関して書かせていただきました。
「イヤミスの女王」とはいえ,やり過ぎました。あまりにも救いのない内容に,「これが10年の集大成か?」と疑問を投げかける内容の記事です。
そして今回の最新刊「ブロードキャスト」。
湊さん初の「新聞連載」となる作品。
書き下ろしであった「未来」とどちらを先に書き上げたのかは分かりませんが,こちらの内容も疑問符が付くようだったら湊さんの今後が心配になるほど,個人的には「未来」の出来映えが引っかかっていたのです。
読み手の要求と湊さんの意向がズレてきているのでは…という点で。
ましてや本作は湊さん初となる「青春小説」。
この時期での「挑戦作」。吉と出るか,凶と出るか…?
「イヤミス流」青春小説
物語の主人公は「町田圭祐」。
中学時代は陸上部で長距離を走り,駅伝の県大会では惜しくも準優勝となり全国大会の切符を逃します。
チームには「山岸良太」という絶対的エースがいたが,直前のけがの影響か,陸上部の監督は山岸を選抜メンバーから外しての2位。
山岸と一緒に進学校でもあり,陸上の名門でもある青海学院進学を果たすものの,その合格発表の日に交通事故に遭い,陸上部への入部が困難に…という展開でストーリーが始まります。
実は冒頭の「山岸がメンバーに選ばれなかったこと」が最終盤に向けての大きな伏線となっています。(種明かしは読んでのお楽しみ)
入学早々に夢も希望も無くなってしまった圭祐に,「その声に惚れた」と声をかける「宮本正也」。そして,なんとなく放送部に入部する羽目に。
クラスメイトで心に闇を抱える「久米咲楽」,現実から逃避しがちな3年生,そんな上級生に反感を抱える2年生らと,高校放送部の全国大会「Jコン」に向けての活動の中で,自分探しをしていく…という流れ。
読了しての全体の感想としては,「意外と読みやすい文体」で書き進められているということ。
湊さんの書き味からすれば,例えばもっと粘っこい文体になったり,奥歯に物が挟まるような書き味になったり…ということも心配しました。
しかしそれは「青春小説」というジャンルからすると逆効果かな…と考えていたので,この点はあっさりクリア,といったところです。
ですから,
「湊かなえの青春小説? 読みづらそう…」
などという先入観をもつ必要は全くありません。
では,
「だったら,湊かなえが青春ものを書く必要なんてないのでは?」
という疑問も生まれそうですが,おっとどっこい!
そこは大丈夫。
湊さんにしかできない罠が仕掛けられてますよ。
それが先にも書いた「山岸良太がメンバーに選ばれなかったわけ」。
最終章で,そのわけが明かされ,なんだかモヤモヤするような,すっきりしないようなそんな感覚を味わいます。
まあ,ミステリーではありませんので「イヤな感じがする」のではなく,いろいろな選択肢はあるだろうけれど「モヤモヤする」というような感じ。
しかし,その人の立場だったらそのような行動を選ぶかも…とい,一定の理解はすることはできます。
また,そんな「モヤモヤ」の種明かしがありながらも,主人公の圭祐が自分と向き合って将来を切り開こうとする,非常に前向きなエンディングとなっています。
「壁にぶつかりながら…」
という展開は青春ものの定番ではありますが,そこに伏線を敷いたどんでん返し的な要素を盛り込んだ点で,
「うん,違いは出せたな!」
と評価できるのではないでしょうか。
「大絶賛!」にならないのは…
確かにこの「ブロードキャスト」,まあ内容は単調ではあるものの心の起伏も描けていますし,お薦めできるレベルの良作に仕上がっています。
しかし,「大絶賛」かと問われれば,答えは「NO」です。
その理由は…?
①どうしても他の作家さんと比較してします
この手の青春ものは既出の作品も多く,どうしても他の作者さんと比較しながら読んでいる自分がいます。
私がその対象として頭に描いてしまったのが,「有川浩さん」と「住野よるさん」です。
湊さんの書き味は,
・有川さんほどの「軽快さ」「爽快さ」「わかりやすさ」「感情移入のしやすさ」がありません。
また,
・住野さんほどの「文章の緻密さ」「純文学然とした文章の美しさ,重厚さ」「感情表現の巧みさ」「終末に向けての躍動感」が足りません。
どっちつかずの印象が非常に大きいのです。
若者の感情の動きを表現する際,「ストレートに描くのか」「ひねりまくるのか」等,やはりその作家さんの「味」が非常に大切ですし,好き嫌いは別にして,その点がよりはっきりしている方が高く評価されるのではないでしょうか?
②心の描写を掘り下げて欲しかった
この作品,テーマは圭祐を中心とする登場人物達の心の動きであり,成長であるはずです。しかし,その部分の掘り下げ方が弱い気がします。
反面,放送部の活動や大会の様子など「心情面以外の描写」が深掘りさせているのです。
これ,恩田陸さんの「蜂蜜と遠雷」でも感じたこと。
まあこちらはより「純文学」といえる範疇であり,「青春もの」といえるほど軽くはありませんでしたが,それにしても「心情面描写」が足りていなかったように感じましたし,ピアノの演奏に関する描写が「うるさく」感じたことが印象に残っています。
湊さんの表現は,どうしても「説明調」になりがちなんですよね。
有川さんや住野さんは,そこら辺のさばき方が上手なのです。
青春ものの「キモ」となる部分ですので,また研究していただきたい!
挑戦は成功!
いろいろと厳しいことも書かせていただきましたが,本ブログで何回もお伝えしてきたとおり,私は湊さんの作品が大好きです。
「未来」はちょっと生理的に受け付けませんでしたが…。
そんな湊さんが挑戦した新たなフィールド。
私は,初挑戦としては成功だったのではないかと考えますし,今後も「ミステリー」だけではなく様々な分野に挑戦してもらいたいと願っています。
もちろん「湊流のスパイス」を効かせて!