ついにシリーズ終了です…
「シリーズ7」の発売を知って歓喜したのもつかの間,どうやらこれでシリーズが終了するらしい…ということに気付いてうれしいやら哀しいやらという気分になったことは以前に書かせていただきました。
このシリーズを通して,筆者である碧野圭の筆力が格段に上がって来たことを感じている私としては,理子や亜紀の姿を通してもっともっと本と真摯に向き合う女性の姿を感じていたいと考えていただけに,本当に残念です。
「完結編」ということで,これまで登場してきた「理子」「亜紀子」「彩加」「愛奈」の4人の「選択」「旅立ち」が描かれています。
それぞれの旅立ち
①愛奈の旅立ち
書店からは離れながらも本との繋がりをもち続けたいと考えていた愛奈は,中学校の司書教諭という道を選択します。
とある中学校で司書教諭を務めながら,「読書クラブ」の顧問を担当する愛奈。
王道である運動部に属さないメンバーの個性,事情は様々。
本作ではこの読書クラブが,自分のお気に入りの作品を紹介する「ビブリオバトル」を文化祭で披露しようということになったエピソードを通して,子ども達の心が開かれていく様子が描かれています。
友達とも距離を置き,なかなかなじもうとしない中村。
ビブリオバトルの事前練習でも,自分の本音を語ろうとしない。
中村が抱えている闇とは?
愛奈はどのように向き合うのか?
②彩加の旅立ち
駅中店の店長を任され,奮闘するも閉店の憂き目に直面する彩加。
これを機に退社し,伯母の書店を借りてパン職人の大田とともに,地元の沼津でブックカフェを開こうというところまでで,前作が終了していました。
本作は「地元沼津」での事後談。
それもかつての彩加の親友との関係修復を描いています。
「もう東京には戻らない」
と宣言して沼津を出た彩加。
それとは反対に,ずっと沼津で生活してきた親友達。
知らず知らずにずれてしまった「沼津」への感覚。
しかし,最後に教え諭してくれたのは,やはり親友でした…。
③亜紀の旅立ち
産休明け,新興堂書店の本部で働いていた亜紀。
子どもも保育園に預けられるようになり,理子の後押しもあって縁ある「吉祥寺店店長」として現場復帰します。
「理子編」の中にも登場し,相変わらずの前向きさで理子のサポートをするまでに成長している亜紀。
現場復帰への緊張と,お客との対面業務に復帰することへの新たなる思いが綴られて本作が締められています。
理子とは真逆の描かれ方で…。
④理子の旅立ち
本作の「第三章」として,最も分量を割かれて,丁寧に描かれているのが理子です。
ペガサスが吸収された新興堂書店の吉祥寺店店長兼東日本エリア・マネージャーという管理職の立場で活躍することは前作までと同様。
今回は,これまでも再三描かれていた震災後の仙台で名前が残されていた「櫂文堂」の処遇がテーマとなります。
新規大型店を全国一斉にオープンして効率化を図ろうとする新興堂本部。
そのあおりで「櫂文堂」という名称が消える危機に陥ります。
それに反旗を翻す沢村を初めとする「櫂文堂」スタッフと仙台の地元民衆。
本部の方針と仙台との間で苦しむ理子…。
結局は,4人の中で理子だけが苦しい立場のままシリーズの完結を迎えることになってしまいます。
う〜ん,切ない…。
主人公は「理子」
書店ガールシリーズは,ペガサス書店吉祥寺店の店長である理子と型破りな新人書店員である亜紀とが,当初は反目し合いながらも互いの力量や本に対する真摯な姿勢を認め合い,タッグを組んで…という展開で始まった話です。
中盤から後半にかけては,新興堂への吸収,バイトで働いていた彩加や愛奈の選択や成長,また,亜紀の夫である編集者の伸光や若手ラノベ作家と彩加との関わりが主軸となりました。
しかし,本作で理解できたことは,やはりこの書店ガールの「主人公」は理子であるということです。
理子は,亜紀,彩加,愛奈が今まで通過してきた「選択の場」をすでに経験し,この3人がこれから経験していくはずの「さらなる選択の場」を本作で経験しました。
人は,その年齢や立場によって,その考え方や振る舞い方が変わってきます。
この書店ガールでは,常にその先導役になっているのが「理子」であるわけです。
新たに吉祥寺店の店長となった「亜紀」も,これからさらなる責任をその両肩に背負うことになっていくでしょう。
そして,このときにはきっと理子の歩んできた道のりを参考にしながら自分の未来を選択していくはず…。
いつの時代も,先駆者の道のりは険しいのです。
表紙の中に見えるテーマ性と碧野さんの今後への期待
この書店ガールシリーズの表紙を見ると,その巻のテーマが見えます。
セミロングが理子。ロングが亜紀。ショートカットが愛奈。お団子が彩加。…でしょう,恐らく。
そして本作にはこの4人全員が描かれています。
それぞれの人生の選択をしながらも,「本」との関わりからは離れようとしない4人。
正に「書店ガール」です。
個人的には,この後いくらでも継続することができるのに…と,かなり残念な思いがあるのですが,恐らく碧野さんは「ここまで」と判断したのでしょう。
であるならば,碧野さんには新しいシリーズをお願いしたい!
これまでの経緯から考えると,「女性目線でのお仕事小説」ということになるでしょうか?
心から楽しみにしています。
そして,ありがとう。4人書店ガール達…。