絶妙な登場人物の描き方と心情表現の巧みさを堪能しよう!
前回は,住野よるさんの最新作「麦本三歩の好きなもの」の章立てに関する個人的な分析と,自分が住野作品の求めていることという視点で,思うがままに書かせていただきました。
本日は,その内容的な魅力を語りたいと思います。
前回の記事でも書きましたが,「登場人物の感情表現」「人物間の魅力的な関わり」という点が住野作品の最大の魅力だと考えておりますので,この点に魅力を感じる章に関して,ネタバレしない範囲で簡単にご紹介していきます。
何を言ってるか分からない…となるかとは思いますが,何か心に引っかかる部分がありましたら,是非本作を手に取って読んでいただければと思います。
まずは,前回もご紹介しましたが,本作の章立てと,「小説幻冬」に掲載された「章」に関するデータを掲載いたします。
この部分に「意味があるのでは…」と妄想した内容に関しましては,レビュー①をご覧下さい。
愛しき登場人物と三歩との日常
①第2章「図書館が好き」
「不明本」探しをする三歩と,同じ場所で本探しをする茶髪女子との,甘酸っぱい恋の物語。
茶髪女子が本探しをする理由とは?
②第5章「ライムが好き」
何事にもこだわる三歩は「韻」を踏みたがる?
初めは「???」となって何回も読み直し,やっと見つけては「にやっ」となること請け合いの2ページ。
③第6章「生クリームが好き」
「優しい先輩」から,働くことの意義,仕事への向き合い方のヒントをもらう,ホッコリ作。
④第7章「君が好き」
大学時代に仲のよかった男友達と水族館に行く三歩。いい雰囲気になるも,実は…。
「社会人になること」「働くことのきびしさ」「自分の見つけ方」「変わらぬ友情」を淡さと異常なまでの鋭さで描く住野さんならではの作品。
⑤第8章「ブルボンが好き」
厳しくも,実は三歩を好いてくれている「厳しい先輩」が抱える大人の事情とは?
お菓子メーカー「ブルボン」が泣いて喜ぶツンデレ作。
⑥第9章「魔女宅が好き」
「魔女宅」とは魔女の宅急便。
三歩なりの自己主張を暖かく見守ってくれる「優しい先輩」と「厳しい先輩」との間で繰り広げられるほんわか日記。
⑦第10章「ファンサービスが好き」
「美人な友人」との温泉旅行記。
美人ならではの悩み,苦悩。すべてを理解してあなたが好き。親友として。
個人的には一番の感動作。
⑧第11章「モントレーが好き」
いつもは何を考えているか分からない「おかしな先輩」。
「三歩だから…」と許されることを「嫌い」といってくれるおかしな先輩に,いつかは好きになって欲しいと願う三歩の成長記。
『か「」く「」し「」ご「」と「』にも通ずる愛おしき登場人物
とにかく三歩を取り巻く登場人物の魅力に包まれる作品となっています。
もちろん主人公は「三歩」なのですが,三歩一人では,正直何の魅力も感じません。登場人物から刺激をもらい,時には憤り,時には素直に感動し…という,三歩の心の動きをあるからこその「主人公=三歩」なのです。
ここら辺は,『か「」く「」し「」ご「」と「』において,それぞれの個性を見事に描きわけ,その関わり合いをテーマとした住野さんならではの描き方。住野作品の魅力全開というところです。
図書館で三歩を見守る「厳しい先輩」「優しい先輩」「おかしな先輩」の描き分け,見事です。「厳しい先輩」のツンデレぶりなんて,照れちゃうくらいですね。
個人的に心が震えたのは,「美しい友人」との信頼関係。まあ,「実は聞いていた…」という種明かしは正直予想付いてましたけど,それにしてもいいお話です。
難しい文体ではないのですが,個人的に解釈するまではちょっとだけ思考が必要という,適度な難解具合が刺激的ないつもの住野作品に仕上がっている本作。
読み手なりの解釈が成り立つという緩さも同時に持ち合わせているところも住野作品の魅力の1つです。
皆さんも,住野作品の絡みつくような魅力に取り憑かれてみませんか?