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池井戸潤「ノーサイド・ゲーム」レビュー〜ロケットも,巨悪もなしのあっさり目…深みには欠けるもラグビー精神を貫く人情話〜

「薄味の池井戸作品」→悪い意味ばかりではありません

 池井戸潤さんの最新刊「ノーサイド・ゲーム」を読了しました。 

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 次期TBS日曜劇場枠でのドラマ放映が決定し,今年のラグビーW杯とのからみも考えられることから,「近年の池井戸作品」宜しく,ご都合主義の大団円を迎える「水戸黄門的」な作品かと以前から予想していましたが…。 

 う〜ん,なんといいますか,作風というか書き味が,明らかに近年の池井戸さんとは異なるのです。
 「薄味」なのです。いい意味でも,悪い意味でも…。

 これは評価が分かれるだろうなあ…という予感です。
 私は嫌いではありませんがね。

 

これまでほどの「巨悪」も「大逆転」もなし

 まずはネタバレにならないほどに,全体の紹介を。
 前掲の帯にもあるように,トキワ自動車のエリート社員君嶋は,とある件で左遷の憂き目に。ラグビー部「アストロズ」のGMの任に就きます。

 まあ,お決まりのごとくこのチームの成績は低迷しており,監督も解任。新たな監督捜しから物語は動き始めます。

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 ここで意外なのが,君嶋が思いのほかすぐにアストロズ再建に前向きになることです。これまでの池井戸作品であれは,主人公自身が迷ったり…という展開もあり得るわけですが,君嶋は徹頭徹尾アストロズの再建に邁進します。

 そして,基本的には,後任の監督,選手,スタッフの思いがぶれることなくエンディングを迎えます。
 このあたりは評価が分かれそうですね。
 近年の池井戸作品を好む方々は,
「あっさりしすぎじゃないの?」
と,物足りなさを感じてもおかしくはないかと想像します。

 あまりにもお手盛り感が強くなっていた感のある最近の作品にやや辟易としていた私としては,
「こういうのもありかな?」
と感じます。しかし,終始「あっさり目」で進む感も否めませんので,ストーリー的な山場がもう少し欲しかったかな…とは思います。

 しかし,障壁や裏切りがないわけではないあたりが池井戸作品。
 アストロズ運営上で最も大きな問題である「運営費」を巡る上層部との軋轢…。
 また,ラグビー「プラチナリーグ」を運営する「日本蹴球協会」の腐敗ぶり…。
 チーム内での序列におけるとある選手の裏切り…。
と,一応は「陳列」されるのですが,下町ロケット等ほどの「絶望的お手盛り感」はありませんね。

 また,経済系が得意な池井戸さんらしく,ラグビーチームの再建話に,社内政治をうまく絡めて盛り上げます。
 上層部と君嶋との関係性で,後半その様相が一転していくあたりには,読み応えと,伏線をしっかりと張り,多様なストーリーの流れをくみ入れることの巧みさを感じ取ることができました。

 

ラグビー協会の内側の描き方がおもしろいが,もっと選手の思いに重点を置いても…

 個人的に興味をもったのが,「日本蹴球協会」の腐敗ぶりが,この物語の土台となっていることです。
 アマチュアとしての「企業ラグビー部」の存在意義を問うというのが本作の根っこだと考えるわけですが,そのアマチュア精神,企業理念にあぐらをかき,ラグビーの発展を妨げているものとして「協会」が描かれているのです。
 これ,実際の「日本ラグビーフットボール協会」や「トップリーグ」,そしてトヨタ,東芝等の「企業」はどのように感じているのでしょうね。

 もちろん本作「ノーサイド・ゲーム」はフィクションなわけで,実際の協会が作品中の「日本蹴球協会」のように腐敗しているとは思いませんが,チームを「企業が支える」という形態は変わらないわけで,ラグビーを全く知らない人が読んだら,誤解を招きかねない書き方では…と思えるのです。

 恐らく池井戸さんと協会側での意見調整も済んでの本作発表でしょうから,全て了承済だとは思いますが,私は,
「協会思い切ったなあ!」
と驚きました。

 

 最後に「もう一工夫…」と感じたことを2つ。

 一つ目は,「あっさり味」の本作について…。
 これまでのような「人工的な味付け」の濃すぎる内容にならなかったことへの評価はしたいと思います。

 しかし…。
 終始「あっさり」のまま進んでしまった感は否めません。
 もちろんストーリー的に起伏はあるのですが,「物足りない」のです。

 個人的には,その「物足りなさ」の原因は「人物像」の描き込みの足りなさだと考えます。
 企業ラグビー選手,しかもチームの存続がかかっている絶望的な現状…。
 …であるのにもかかわらず,各選手のこれまでの経緯や,現時点での思い,悩み等の深い描き込みが殆ど無いんですよね。あっても表面的というか…。
 ストーリーの中で,選手・スタッフ等,幾度となく涙するわけですが,なかなか伝わってこない面も…。
 題材的に,人物の深い描き込みが可能であっただけに,非常に残念に映りました。

 二つ目は,ラグビーの「試合中」の描写について。
 巻頭にはラグビーの「ポジション説明図」を添付するなどの配慮はあるものの,特にラグビーに関心の無い女性が読むには敷居が高すぎますし,分かりづらい描写に終始しています。
 途中までは,あえて試合の描写を少なくして,ストーリーの展開を早めているように感じましたが,どうしてもクライマックスの試合での鈍重さと,なかなか「頭の中で映像化されない描写」に引っかかりを感じました。
 そこそこラグビーの知識がある私でも違和感を感じましたので,そうでない方々はストレスを感じるかも…。

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 と,勝手気ままに書かせていただきましたが,池井戸さんが意識してかどうかは分かりませんが,以前と作風が変化したことを,私は評価したいと思います。 
 これで次回作への期待も膨らみます。
 「ドラマ 半沢直樹」の放映も決定しましたので,恐らく来年は「半沢直樹シリーズの新作」もあるのでは…と考えているところです。  </p