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有川ひろ「イマジン?」レビュー②〜有川流エンターテイメントも,若干の違和感あり〜 

良井良助の成長と甘々の予感…

 前回は,有川ひろさんの最新刊「イマジン?」のレビュー第1弾をお届けしました。 

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 今回は第3〜5章の概要をご紹介。

第3章「美人女将,美人の湯にて」

 ドラマ「美人女将,美人の湯にて〜刑事真藤真・湯けむり紀行シリーズ〜」の制作。
 そう,2時間ドラマのあのシリーズを基にしていますね。 

 この章のテーマは,前章に引き続き「ハラスメン」。しかし,前章の「パワハラ」ではなく「セクハラ」です。
 どのような「セクハラ」なのか…については読んでのお楽しみですが,この章,「殿村イマジン」のスタッフの「事情」を掘り下げた章ともなっています。

 社長「殿村」と経理「今川」の因縁,良助の先輩にあたる「亘理」と「佐々」の未来。
 そして,新スタッフとなる「島津 幸」と良助との関係性。

 全5章の丁度中間で,このような「種明かし」的な章を入れてくるあたり,
「さすが有川さん,分かっていらっしゃる!」
というところでしょうか。

第4章「みちくさ日記」

 映画「みちくさ日記」の制作。
 ずばり,有川作品「植物図鑑」のパクリドラマです。第一章の「天翔ける広報室」(空飛ぶ広報室のパクリ)同様,またまたやらかすあたり,エンターテイメントに徹してます。

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 「みちくさ日記」は,「雑草好きの高校教師と女生徒との恋愛もの」となっており,本来の「植物図鑑」とはかなりシチュエーションが異なりますが,こちらも第一章同様,
「雑草という草はない。草にはすべて名前がある」
という決めぜりふはそのまま拝借しております。

 さて,本章のテーマは俳優と原作本作者の「制作」へのかかわりです。
 主役であるアイドル系事務所のタレントが,原作をリスペクトする読者からの誹謗中傷に対してどのような思いで臨み,どのように乗り越えていくのか…。
 また,そんな状況下で,原作本の作者はどのように振る舞うのか…。

 ここで「?」となりませんか?
 作中の「原作本作者」といえば,有川さん本人の姿と重なるわけです。何といっても,自らの作品「植物図鑑」をもじって作中の作品を登場させているわけですので。

 というわけで,本章には「沖田ナオ」という「みちくさ日記」の著者が登場します。そして,この沖田は,制作現場の見学を通し,世論のバッシングに対するメッセージをSNSに書き込みます。
 多くの作品が映画化,TVドラマ化されている有川さんならではのメッセージを届けようという狙いなのでしょうが…。ここら辺からややきな臭い香りも漂ってきます。詳しくは後述。

第5章「TOKYOの一番長い日」

 映画「TOKYOの一番長い日」の制作。
 「殿村イマジン」に採用されて半年経過し,仕事にも慣れ,信頼を築き上げつつある良助。一大プロジェクトとなる映画の撮影に関わる「殿村イマジン」の一員として活躍する中で,自らの未来を見据えることになる最終章です。

 着々とそれぞれの未来を見据え,歩み出す先輩達。そんな先輩達の姿から刺激をもらい,自らの成長も感じ取ることで,多少なりとも意識できるようになってきたごくごく近い将来。「映像制作に関わることが大好きだ」という自らの根源を確かめるとともに,「夢さがし」を始める良助の姿が,実に瑞々しく描かれています。

 また,本章でも,小説の「原作者」が登場。
 シーンの実情に合わせて作者自ら脚本を書き換えるという関わりを見せた反面,作品をリスペクトしないスタッフに対しては鉄槌を食らわせたり…。
 第四章同様,有川さんの「作家としての信条」が全面に出た構成になっています。

 終末は良助と島津の関係にも注目です!

 

「人垂らし」的文章は,相変わらず魅力的だが…

 作品は非常に魅力的です。
 平易な文体なのに奥深く,あっという間に文中の世界に引き込まれます。

 登場人物の心情表現が実に巧みで,「人垂らし」的な文体は正に健在。さすが,とうなる出来映えです。

 しかし,気になる点も。
 大まかにいえば,
「有川さんの私情が入りすぎている」
ということです。

 例えば,「空飛ぶ広報室」「植物図鑑」という自らの作品をもじって文中に登場させるという手法。しかも,5章のうちの2章も…ということで,やり過ぎ感は否めません。1つだけだったら「アクセント」と評価することもできたでしょうが…。

 また,これ2章分に,「原作者」が登場する点。しかもそのうちの1人は思いっきり有川さん本人と匂わせる登場の仕方。
 そして,この原作者が,制作側の意図を汲んでSNSで世論に発信したり,自ら制作現場に現れてトラブルに応じた脚本を書き直したり…。特に後者は興ざめでした…。

 もちろん小説の作者は自らの考え,信条を投影する形で作品をしたためるのでしょう。
 しかし,あくまでもその「真意」を「想像する」のは読み手の側です。作者側がそれを匂わせ過ぎたり,押しつけがましくなったりしては絶対にいけません。

 今回の有川さんはそのタブーを破ってしまった,やり過ぎてしまった…と感じます。

 あくまでも物語の展開や登場人物の台詞等,作品の中で読者に訴えかけなければならないはず。
 いくら有名作家といっても,分を超えてはいけません。
 本作でも,「殿村イマジン」の面々は,あくまでも制作側として,その仕事の範疇の中で精一杯の仕事をこなし,時にはくやしい思いも重ね,成長していきます。

 せっかく登場人物は「いい仕事」をしてるのに,有川さんの立ち位置はどうだったでしょうか?
 人間,年を取ると理屈っぽくなったり,考え方が固くなったり,押しつけがましくなったりしていきます。
 今後の有川さん,大丈夫かな?

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