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浅倉秋成「六人の嘘つきな大学生」レビュー〜ポスト「湊かなえ」の伏線回収力とイヤミス度〜

浅倉秋成「六人の嘘つきな大学生」読了

 GW中に浅倉秋成さんの「六人の嘘つきな大学生」を読みました。

Wikipediaには,
2012年12月,第13回講談社BOX新人賞“Powers”で,Powersを受賞した長編『ノワール・レヴナント』でデビュー。2020年,『教室が、ひとりになるまで』が第20回本格ミステリ大賞小説部門と第73回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門の候補作となった期待の作家
と紹介されています。

 1989年生まれということですので,30歳台前半の期待の若手…というところでしょうか。
 最新刊となる「六人の嘘つきな大学生」の評判が非常に高く,まずはこの作品から読んでみることに…。

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 結論から言うと,
「荒削りながら,大器の片鱗を感じる…」
といったところでしょうか。

 

「湊かなえ」の匂いがプンプン

 ネタバレはできませんが,2011年,新興のIT企業の最終選考に残った6人の就活生の話。
 「グループディスカッション」を行い「全員の合格もあり得る」とされていたのだが,急遽「合格は一人だけ」,しかも選考を「自分たちで行う」ように指示された6人の前には,それぞれの弱みをあらわにする告発文が…という筋立て。

 善良なる就活生と思われた6人の前に訪れる秘密の暴露。
 それぞれの裏の顔を見たときの個々の対応は?
 そして彼らはどのようにして「合格者」を選び出すのか…?

 前半はこのようなうねるような展開で進みます。
 そして,都度都度挟まる「現在」の最終選考に関わる人物のインタビュー。時を前後しての登場人物の言葉が,伏線を生み,さらにはその伏線を回収する役割を担います。

 「合格者」を出すに当たっては,当然生々しい人間のやり取りがあります。そこには人間の表の顔と裏の顔が混在し,なんともすっきりしない嫌な感じを受け取ることになりますが,後半の回収部分で救われることに…。

 まずもって,序盤から感じたのは,
「これ,相当湊かなえさんの書きぶりに似ているな…」
ということです。
 一見善良だと思われた人間の愚かな面を,「告発文」という形であぶり出す戦略。そして,その告発文を「誰が書いたのか」を探りながら,後半で一気に伏線回収する書きぶり。途中で個々のインタビューを交えながら…というやり口は,湊さんお得意のとも言えるものですね。

 また,「イヤミス」といわれる人間の嫌な部分を題材にしながら問題解決に至ったり,そんな中にも最終的にやや救われる方向で物語が展開していく…という作風も,湊さんそっくり。
 個人的には,
「パクリともとれるのでは…?」
と思えるほど似ていると感じました。

 それでも作品として十分に楽しめるのは,浅倉さんの力があるから…ということなのでしょう。

 

独自性の出し方と,作者の成熟と…

 今後に大きな期待ができる浅倉さんですが,課題も大きいかと…。

①「脱湊かなえ」を図る独自性の出し方

 まずは,プンプンとにおう「湊臭」を消すこと。
 あまりに似すぎていると感じます,作風が…。恐らくは「伏線回収」が浅倉さんの「売り」になるのでしょうが,さすがに独自の表現の仕方を磨いていかないと厳しいのではないかと感じます。
  一流の作家さんは,同類のテーマの作品を仕上げても,それぞれ個別の「色」を文章に感じ取ることができます。同じ「伏線回収」の文体であっても,当然書き味が異なりますし,不思議と「他の作家さんと似通っている」と感じることがありません。
 浅倉さんには,いち早く「湊臭」からの脱却が求められるでしょう。

②広い題材を選択できるように

 浅倉さんの作品を全て読んだわけではありませんが,高校生,大学生の生活を題材にしたミステリーが中心となっている印象です。
 浅倉さんがまだ30代前半という若さなので,今まではこれで良かったでしょうか,今後は異なる場面設定での作品が求められるでしょう。企業ものであったり,大人同士のより深く醜いやり取りであったり…。
 「本格的な作家」として認知されるには,そろそろ視野を広げ行かないといけない頃合いなのでないでしょうか。

 今後数年のうちにどのような作品を出してくるかで,浅倉さんの今後が決まってくるような印象を受けます。独自性を出し,浅倉さん自身の成熟が作品に現れるような展開になっていけば,ひょっとすると次世代を担う…ような作家へと成長していくことになるかもしれません。

 期待して次作を待ちたい作家さんです!

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