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雫井脩介「霧をはらう」レビュー〜冤罪事件の渦中にある、被疑者家族と弁護士の葛藤・苦悩を描く名作!〜

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雫井脩介「霧をはらう」読了

 雫井脩介さんの最新作、「霧をはらう」を読了しました。

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 以前にご紹介したとおり、本作は、これまで裁判官、検事の葛藤を描いてきた雫井さんにとっての三部作とも言える「弁護士」ものとなっています。

 いや〜、これ、名作だと思います。
 雫井さんの代表作と言えば、「犯人に告ぐ」シリーズがあり、その第3作「紅の影」も素晴らしい作品でした。

 この作品では、第2作「闇の蜃気楼」の主犯格だった淡野の悲哀を描いているのですが、その人物描写の巧みさには舌を巻くほどの筆力を感じました。

 今回の「霧をはらう」は、弁護士を主人公とする「法廷サスペンス」という位置づけですが、いやいやどうして、人間の生き様を描く骨太な作品になっています!

 

被疑者を、母親を信じる…ということ

 本作は、とある病院の小児科で起きた薬物混入による殺人事件を舞台として、無実を訴える被疑者を守るべく汗をかく弁護士と、被疑者の娘達の心の葛藤を描いています。

 被疑者となってしまう女性は、二女の入院中に事件に巻き込まれ、犯人として囚われの身となり、厳しい取り調べの中で一旦は自白をしてしまいます。
 独特の完成をもち、一般的な常識とは異なる行動をとることもあった被疑者に対し、長女も、弁護士も、病院関係者たちも、疑念を払えないまま捜査は進み、ついには裁判へとなだれ込んでいくことに…。

 しかし、弁護士が細かな聴き取りを進め、少しずつ被疑者を信じられるようになるととに、被疑者の長女の心を解きほぐしていくことで、被疑者への不振という「霧」が払われ、最終的な大どんでん返しへとストーリーは進んでいくことになります。

 具体的なことはネタバレになるために書きませんが、この「霧を払っていく」行程の描き方が秀逸です。

 弁護士として被疑者を信じるということはどういうことか…?
  先輩や同僚の弁護士との関わりの中でどのように心理に辿り着くのか…

 娘として、被疑者となった母親とどのように対すればいいか?
  過ちを一旦は認めてしまうという弱さは誰にでもあることに、どのように気付いていくのか…

 両者とも幾田の困難にぶち当たりながらも、最終的には「正解」へと辿り着きます。
 また、その「正解」への道程には、事件関係者の勇気ある行動があったり、二人の姉妹を温かく包もうとする友人たちの姿があったり…。

 謎解き自体派手な展開はありませんが、少しずつ事件の本当の姿が顔を現す行程が実に巧妙に描かれていますし、真相の周囲で暗躍する影が伏線として散りばめられていたりと、当然ミステリーとしての要素も一流ではあります。
 しかし、本作はあくまでも「心理ドラマ」だと言えます。
 現実と向き合うことで、弁護士として、娘としてどう向き合えばいいかに悩みつつ、真相に辿り着くまでの、それぞれの「成長のドラマ」です。

 信じて、諦めず、自分のできることに最善を尽くす…。
 そのことが「迷い」=「霧」を払うことに繋がる…。

 悩みを抱える現代人への応援歌のようにも感じました。

 

雫井さんの代表作となるのでは?

 文体は坦々と…。
 しかし、非常に緊張感のある書きぶり…。

 「犯人に告ぐ」にも通ずる雫井さんならではの文章です。
 その中で、人間の「迷い」「戸惑い」を実に巧妙に描いており、その人物の心情描写に関しては、これまでで最高の出来ではないかと考えます。

 恐らくは雫井さんの代表作になるのでは…という予感さえします。

 これ、映像化のオファーもたくさん来そうです。
 個人的には、登場人物の心情変化を楽しむ…という意味で、映画ではなく連続ドラマの形式で観てみたい!

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