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垣根涼介「涅槃」、読了〜したたかに宇喜多家を再興、興隆させた宇喜多直家の物語〜

垣根涼介「涅槃」、読了

 垣根涼介さんの最新刊、「涅槃」を読了しました。

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 お家再興のために、裏切りを重ねてのし上がっていく…という、これまでの宇喜多直家像に真っ向から挑んだ本作。

 「光秀の定理」「室町無頼」「信長の原理」と、このところ時代小説にはまっている垣根さんの歴史小説第4弾です。

 徹底した史料分析を行い、主人公の生き様のどの部分に焦点を当てて文章にするのかを徹底的に計算し尽くした垣根さんの文章。
 登場人物の心の動きを細やかに描くことで、「深み」と「凄み」を与えてくれます。

 さて、宇喜多直家は、我々に何を語りかけるのでしょうか?

 

商人的感覚と、人との強い絆でのし上がる直家像

 本作では、「裏切りを重ねて…」という部分を印象づけるのではなく、あくまでも「宇喜多家を守る」という考え方の基、致し方なく、あるいは戦術的に真っ当に行ったこととして描きます。

 「極悪非道」というイメージは、戦略上の駆け引きで敗れた側が意図的につくりあげたもの…という捉え方です。

 この「お家を守る」という直家の考え方は、幼少期に家が没落し、そこから自力で宇喜多家を再興させたという生き様から生まれています。
 また、お家没落の折、家族がバラバラになったり、ひどい仕打ちを受けたりと、人間の嫌なところを見せつけられるようにして過ごした幼少期の記憶が、猜疑心にまみれ、物事を慎重に運ぶという直家の考え方を形成していくことになります。

 しかし…。
 本作を支えているのは、「人との絆」です。
 落ちぶれていた直家の才覚を見いだし、元服までの世話をした商人、阿部善定。また、魚屋九朗右衛門、その養子である弥九郎等…。
 幼少期に商家で過ごした経験が、計算ずくで戦術を練ったり、町人のための街づくりをして矢銭を稼いだり…という、宇喜多家が勢力を広げていくための基礎を作り上げます。

 また、商家の用心棒であった牢人、百瀬は、直家に武術を教え、命をもって初陣を飾る助けとなりました。

 さらに、人生の道しるべともなった女性との関わり。
 男女の機微を教え、人として成長させた沙代。
 死ぬまで添い遂げることになったお福。
 思慮深い女性が、直家の心を癒やし、時にはお家の存続を左右する助言をすることになります。

 加えて、幼少期からの縁である黒田満隆・官兵衛親子との不思議な繋がりは、最終的に宇喜多家が織田方に加勢するための橋渡しになります。
 そして、「わしは決して家臣を裏切らん」と宣言したように、あくまでも家臣のことをおもんばかって政治を進めた直家…。

 「人嫌い」という根本がありながら、結局は人との繋がりで宇喜多家は栄えていくのです。
 このあたりの描き方、圧巻です。

 

 惜しむらくは、ウエイトのかけ方が…

 総合的には、非常に満足です。
 やはりこの垣根さん、ただ者ではありません。
 文章の説得力、人垂らし的な文体…。重厚感が違います。

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 ただ、これまでの3作と比較すると…。
 特に、「室町無頼」と「信長の原理」がとてつもない名作だったため、やや評価は下がるかな…という感じです。

 どういうことかというと、本作「涅槃」では、上巻が幼少期からお家再興、下巻が勢力拡大という構成になっているのですが、直家の人生の表現に当たり、上巻のウエイトが非常に大きくなっている…と感じました。

 つまり、下巻で描かれる宇喜多家の隆盛ぶりが、やや駆け足になってしまい、坦々と最後まで進んでしまったという印象を受けるのです。クライマックスがどこか分からなかったというか…。

 もちろん、幼少期の過ごし方や沙代との出会いが、直家の根幹をつくり上げたということを強調したかったという垣根さんの意図は分かるのですが、それにしてもウエイトがかかりすぎたといいますか…。

 しかしまあ、本作が非常に優れた歴史小説になっているということに変わりはありません。
 どなたにも自信をもってお薦めできます。

 もうすでに、「第5弾」を心待ちにしている自分がいます!

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