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2021年を振り返る【5】〜お薦めの本編 ゆったりじわじわのハートフルもの「麦本三歩」と、硬派の社会派推理もの「霧をはらう」〜

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2021年のお薦めの本は?

 2021年の振り返りをさせていただいております。

 年末に、個人的なお薦めの小説ランキングを書かせていただいているのですが、そういえば2020年は第1位が「なし」という結果でした。

 まとめ記事にはしませんでしたが、2018年は垣根涼介さんの「信長の原理」で決まりの年でした。

 さて、今年は…
 内容としては正反対の2作品が1位を分け合う結果となりました。

 

「麦本三歩」と「霧をはらう」

 では,第5位からカウントダウンしていきます。

第5位 東野圭吾著 「白鳥とコウモリ」

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 殺人事件で完落ちした容疑者への疑念から、真犯人に辿り着くまでを描いた推理もの。
 加害者側,被害者側,捜査側という,本来であれば互いのことを疑ったり憎んだりし合う者同士の中それぞれに,「何かがおかしい…」というモヤモヤが生まれていくという展開。

 東野さんが得意とする「人情推理もの」として、読み応えある作品となっています。
 前半部分の鈍重さと、終盤の解決場面の伏線の強引な張り方が気になり、5位としました。
 余計なことまで書いてしまう…というあたりに、東野さんの筆力の衰えを感じてしまうのは私だけでしょうか?

第4位 夏川草介著 「臨床の砦」

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 現役の医師として執筆活動にも精を出す夏川さんが、コロナウイルス最盛期の時期に緊急出版したドキュメント小説です。

 自分の命とも向き合いながら未知のウイルスに対する医師。
 次々と消えていく命と医療体制の限界とのはざまで悩む医師。
 そんな緊急時の医療従事者の魂の叫びが聞こえてくるような作品になっています。

 現在は幸いに、日本ではコロナウイルスの状態が安定していますが、これが再度悪化すれば再度医療従事者の方々の生活も脅かされることになります。
 ヨーロッパでは、「ウイズコロナ」の考え方の下、「感染よりも普段の生活をとる」という考えが主流のようですが、その分医療従事者の暮らしが脅かされているのではないでしょうか?

 私は、全ての国民が安心して暮らせるように、節度ある生活が重要だと考えます。
 個人の「自由」は、集団・社会の安全を脅かしてはいけないのではないでしょうか?

第3位 垣根涼介著 「涅槃」

f:id:es60:20211219183303j:plain バリバリの首位候補が今年は3位です。
 「光秀の定理」「室町無頼」「信長の原理」という、垣根さんが歴史小説を書くようになってからの3作は本当に優秀であり、それが作を重ねるごとにグレードアップする印象でしたので、非常に期待しておりました。

 本作は宇喜多直家の生涯を描いており、書き味も重厚で読み応えもあり、垣根さん流の心情描写は素晴らしいの一言。
 では、なんで3位かと言いますと、これまでの作品よりも「散漫」というか、直家の「信条」というか作品の柱のようなものが今ひとつあぶり出しきれなかった…と感じたからです。

 また、幼少期からお家再興を描いた「上巻」と、勢力拡大を描いた「下巻」のウエイトのかけ方も微妙。上巻を色濃く描いたのはいいのですが、肝心の宇喜多家興隆の描き方が不足していたように感じました。
 上巻の女性との出会い部分がもう少しスリムでも…というところ。まあ、これは読み手の感じ方次第ということがあるかもしれません。

第1位 住野よる著 「麦本三歩のすきなもの〜第二集〜」

 そして、同率1位の一作品目は、こちら。

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 レビューでも書きましたが、読んでいる途中から、
「これは今年1番の作品になる!」
と予感させるほどの素晴らしさでした。

 まず感心するのが、「第一集」よりも確実にストーリーの質が上がっていることです。
 前作は、天然でこじれまくっている主人公の「麦本三歩」の描き方を探っている印象がまだ残っていましたが、本作は全12作品にハズレ無し!
 「三歩の心の中のこじれまくった思考」を巧みにしかもねっとりと表現し,「周囲の人と関わることでの成長」をテンポ良く描くとともに,「最後には誰もがホッコリとした気持ちになる」展開を用意する…。
 完璧です。

 また、本作の魅力でもある「言葉遊び」がたまらない。
 冗談ではなく、本当に読みながら何回も吹き出すほどの住吉さんの言葉選びのセンス。
 レビューでも書きましたが、恐らくシリーズ化必至でしょうし、そのうちTVドラマ化、映画化があると思います。主演は「永野芽郁さん」あたりでどうでしょう。あのおっとりとした雰囲気は三歩に適役では?

第1位 雫井脩介著 「霧をはらう」

 同率1位のもう一冊がこちら。

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 弁護士を主人公とする「法廷サスペンス」という位置づけですが、人間の生き様を描く骨太な作品になっています。

 ある殺人事件の容疑者になった母親に対する娘の心の動き、また、弁護士として被疑者の無実を信じ続けることができるかどうかという葛藤。
 双方の視点から、人間としての「生き様」を描く心理ドラマであり、「成長のドラマ」です。

 坦々とした文章。しかし緻密かつ緊張感がある文体で、無駄がありません。大作ではありますが、遊びがないのです。
 その中で実に繊細に描かれる心理描写。
 娘も、弁護士も、幾度となく悩み、迷い、自分を見失いかけます。しかし、ギリギリのところで自らへの誇り、家族への愛情が引き留める。

 確実に雫井さんの代表作になる一冊。
 やはりこの方、実力があります。

 とまあ、ここまで好き勝手に書かせていただきました。
 2022年も、素敵な本との出会いがあることを願っています。

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