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岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて』読了!〜これまでで最高の完成度 強引さも消えて…〜

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『珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて』読了!

 岡崎琢磨さんの最新刊
『珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて』
を読了しました。

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 先日お伝えしたように、今回は短編集。

 京都の町の風情を活かした物語の構成や、純喫茶タレーランの雰囲気、美星、アオヤマ、藻川、シャム猫シャルルといった登場人物のキャラ設定等、シリーズが進むにつれて随分と洗練されてきた感があります。

 ただ、トリックを解明していく段になると、著者である岡崎さんの「強引さ」が非常に目立つ場合があり、それがシリーズの中で改善したり悪化したりを繰り返しているということが気になっていました。

 しかし…。
 今回はストーリーや謎解きの展開にも無理が無く、それでいて美星の推理の冴え具合は抜群。短編でありながら、ストーリーの中に人間の心の中の澱のようなものが巧みに表現されている良作になっています。

 私は、条件付きでシリーズ最高傑作だと考えています。

 

謎解きに隠された人間の「陰」

 本作はこれまでと大きく異なり、アオヤマや藻川という脇役は殆どストーリー展開に影響がない程度の描き方しかされていません。
 つまり、様々な問題を抱えてタレーランを訪れる客と、その話を偶然聞いてしまって謎解きをする美星とのやり取りを描く形態をとっています。

 私としては、「短編集」ということで余計なことをそぎ落とさざるをえなかったことや、登場人物をしぼることでその関係性を焦点化しなくてはならなかったことが、筆者の「強引さ」を消す働きとして作用したのではないかと考えます。

 収録されているのは短編4、掌編2。

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 今回の題材は全て、筆者が見聞きした実際の出来事を始点に描かれているとあとがきに記されています。この視点も斬新ですね。

 また、全てのストーリーが、人間が心の中に抱えている「澱」「陰」のようなものから問題が発生しています。
 自分の立場を有利にするため、自分の嘘を隠すため、愛されているかを確認するため…等々、短編ながらもその深刻さが実に深く巧妙に描かれており、感心しました。 

 そして、その客同士の会話や行動、持ち物を手がかりに、
「店内が静かで全て聞こえてしまいました…」
と言いながら一瞬で問題を解決してしまう美星。
 前述したように、今回は謎解きをする上での強引さや荒さは陰を潜め、納得の解決へと導いてくれます。

 悲しい結末あり、ハッピーエンドあり。
 しかし、全ての作品が読み手の心を揺さぶることになるはずです。

 

納得して読むための「条件」とは?

 さて、このように作品的にはシリーズで最も優れたものになっていると感じるわけですが、前述したそのための「条件」とは?

 本作では、純喫茶「タレーラン」や美星や従来の登場人物に関する詳しい描写がありません。
 つまり、これまで本シリーズを読んできた読者であればその背景を頭に入れながら楽しむことができるのですが、本作が初めてという方が本作を読むと、何だか薄味に感じてしまう可能性があると考えます。

 ですから、できればこれまでのシリーズを読み、タレーランの背景を知った上で本作を読むことをお勧めします。
 楽しさが倍増すること請け合いです!

 更に…。
 あとがきでは、「タレーランシリーズ10周年」を記念して、この8月に「8巻」を刊行するとがよこくされております!
 これは楽しみ。
 恐らく今度は長編になるでしょう。美星とアオヤマの関係性も進めていただきたいものです。

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