池井戸潤「ハヤブサ消防団」読了
池井戸潤さんの最新刊「ハヤブサ消防団」を読了しました。
近年の池井戸作品は、「半沢シリーズ」「下町ロケットシリーズ」のように、「勧善懲悪」「最後には成功」という、お手盛りの作品が多くなっていました。
池井戸さんの作家としての文章力は非常に高く、分かりやすい文体で読み手を惹き付ける技量においては日本の中でも指折りだと考えています。
しかし、当初の「銀行もの」のようなドライな感じは最近は全く感じることができず、内容も「水戸黄門的」な先が読める展開の作品が多くなってきて、若干興味が薄れがち担っていたところでした。
しかし…。
今回の「ハヤブサ消防団」、タイトルのダサさと内容は全くの別物。
近年にはない「本格社会派ミステリー」として読み応えがあるものになっています。
「宗教」というテーマは古びているが、仕立ては悪くない
物語は、主人公であるミステリー作家の「三馬 太郎」が、父の故郷である「ハヤブサ地区」に引っ越してくるところから始まります。
都会と田舎との暮らしの違いや、ハヤブサ地区独特の慣習に戸惑う三馬。
しかし、人情味溢れるハヤブサ地区の人々との交流を重ね、そのよさに気付いていきます。
そんな中で発生する「連続放火事件」。
そして「2件」の殺人事件も発生し…と物語は展開することになります。
事件解決の手がかりになりそうな「ソーラー化計画」。
影を落とす「新興宗教」との繫がり…。
三馬が、地域の自治消防団である「ハヤブサ消防団」の仲間、その他の村人達との関わりの中で事件解決に向けて動き出して…。
ということで、事件の裏側に「宗教団体」が…という手法はかなり古くさいやり口で、もう少し別のアプローチがあったのでは…と思ってしまいます。
ただ、その裏側に、数十年前からのハヤブサ地区の人間関係や、波瀾万丈な登場人物の人生、家族の繫がり、新興宗教に縋るしかない人間の悲しみ等、非常に複雑な要素が絡んでおり、それを平易や文章で破綻無く描く池井戸さんの力量を示す力作となっています。
犯人の特定に向けても、二転三転の展開が用意されており、一筋縄ではいきませんよ。
決して仕立ては古びた感じにはなっておりません。
ただ…。
小さな地域で連続放火が起き、2件も殺人事件が発生しているのに、最後まで警察が本格的に動くことがなく、三馬を中心とした民間人が真相を追究していく様は、さすがに無理があります。
そんなわけないでしょう。
ミステリー、推理小説側に振った、池井戸さんにしては珍しい方向性の作品ですが、根本に無理があるあたりに最近の池井戸さんの夢想感を感じてしまいます。
まあ、それはさておき…。
久しぶりに純粋に池井戸作品を楽しめました。
お薦めできる一冊です。