有川ひろ「クロエとオオエ」レビュー
有川ひろさんの久々の新刊、「クロエとオオエ」を読了しました。
宝石商の御曹司「大江頼任」と彫金職人「黒江彩」のお仕事ラブコメ…ということで、往年の有川さんの作品群を読んだことがある世代にとっては正に「待望の」という作品でした。

本作は、内容以前に現代的な仕掛けが施されており、そこを含めて作品全体の評価をしなくてはならないと感じました。
それでも…。
ラブコメ度は「図書館戦争シリーズ」が各段に上ですし、お仕事小説としても「空飛ぶ広報室」が上かな…と。
有川さんのよさは出ている作品ですが、以前と比較すると勢いが…と感じてしまいました。
何かが物足りないのです…。
インスタとの連携を生かした新機軸/ただ「ラブコメ度」はスピード感が足りない気も
まずもって本作は、宝石商の御曹司「大江頼任」と彫金職人「黒江彩」が仕事を通して互いの愛情を深めていく話です。
頼任の方が綾にぞっこんで、異質の才能を魅せる彩の才能を開花させていく…というお仕事小説の面もたっぷりと描かれています。
「物足りなさ」を感じる部分としては…。
まずもって、彩の才能が完璧過ぎて、あまりに上手に話が進みすぎ。この点で、「お仕事小説」としてはかなり物足りません。
また、各章でクロエ(彩)ブランドとして「ジュエリー」が製作されていくわけですが、かなり専門的な用語が連発されます。この点を補うために、本作では各章の最終ページに以下のようなQRコード突きのイラストを掲示。読み手がスマホの画像で、作品に登場した作品をインスタで閲覧することができる…というシステムをとっています。
まあ、現代的と言えば現代的。ただ、いちいち画像確認のためにスマホを取り出すことで読書のテンポが崩れることも事実です。また、あまりに専門的な用語が多いため、私のように知識の無い人間では、画像を見ても言葉の意味が分からない…というものが複数ありました。
正直、かなりのストレスです。
ここまでやるのだったら、Web上に作品に登場するジュエリーの一覧画像を置いてくれていた方がよかったかな? 本等であれば、本の中にカラーページで作品を載せてくれた方がいいのですが…。
さらに…。
ラブコメ的な面では、どうも二人の中が進展していくスピード感、疾走感のようなものが決定的に欠けているような気がします。いやいや、普通だったらもっと急速に進展するだろ?…と思ってしまうような展開なんですよね。ラブコメを謳っているのに、これは致命的かと。
本作は、講談社の「小説現代」で連載されていたようです。当然執筆開始から終了までの期間や話数も決まっていたはずで、今回はこの連載の決まり事にとらわれすぎたのでは?…思ってしまいます。
また、各章ごとに何らかの事件が発生してそれに対処する…という流れが、坂木司さんの「和菓子のアン」シリーズの進行に酷似しているような印象を受けました。登場人物にそれぞれの事情があって…という流し方も同様。何か既視感があって、新鮮さが感じられなかったのは私だけでしょうか?
と、全盛期の有川さんを知っているだけに辛口になりましたが、勿論「有川節」は健在。「宝石」という新たなジャンルに挑戦したことも大いに評価したいと思います。
有川さんには、近いうちにまた甘々な作品を書いてほしいなあ…。