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「ぼくときみの半径にだけ届く魔法」七月隆文★読後レビュー★ 〜愛,家族,仕事を真っ正面から描いた意欲作〜

読了 七月隆文「ぼくときみの半径にだけ届く魔法」

 七月隆文さんの最新刊「ぼくときみの半径にだけ届く魔法」を読みました。

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 事前の想像とは異なり,いい意味で恋愛を,そして生き方を「真っ正面から」描いた読み味爽やかな意欲作と感じました。

 お薦めです!

 

 

「病気の彼女」が現実離れを感じさせない

 七月さんの代表作といえばもちろん「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」でしょう。

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 この作品は,「逆方向の時間軸を行き来する二人のすれ違いを土台とした純愛もの」となっています。
 所謂「タイムリープ」ものであり,実際には起こりえない舞台で進む「絶望感」のようなものが,「純愛」の度合いを増幅させ,読み手の琴線をくすぐるとともに,その想像力を高めることに一役買っていました。

 その「現実離れ」したストーリー展開が,良くも悪くも「ラノベらしさ」を醸していて,七月さんの足場となる「ラノベ」範疇での名作だと私は考えています。珍しく映画も原作のイメージを崩さず,原作,映画ともに個人的に大好きな一作となっています。

 

 そして本作の「ぼくときみの半径にだけ届く魔法」。
 明らかに前作とは異なる味付けです。

 もちろん「純愛もの」ですし,「病気」というお約束の障害も2人の前に提示されています。では何が異なるのか?

 ずばり,それは「現実味」の度合いだと考えます。

 主人公は駆け出しの写真家「須和 仁・すわ じん」と病気で一切外に出られなくなってしまった「幸村 陽・ゆきむら はる」。

 物語は,偶然窓際の陽の姿を写真に収めた仁が,その写真の使用許可を求めるために関わりをもつことから始まります。
 ネタバレになりますので詳しくは書けませんが,何のレタッチも必要としないほどの「奇跡の一枚」となった陽の写真に運命を感じる仁と,外部から完全に遮断されてきた自分と外の世界を繋ぐための可能性を感じた陽が次第に惹かれ合っていくことになります。

 ここで鍵になるのが,陽の病気。「自己免疫疾患」なのですが,ストレスに感じることがあると発作が起こるという非常に特殊な症例であるという設定です。外部からの直接的なものだけでなく,
「自分の病気で相手に迷惑をかけているんじゃないか」
という内的な要因でも発作が現れてしまうという稀な例。それ故,家族とも離れて暮らすことに…。

 

 まあ,「非常に特殊な病気」という現実解離性はあるのですが,読んでいくとそんなに突拍子もない感じではありません。
 逆に,陽が少しずつ自分を解放していく様子や,仁が陽を撮影したことで自分の仕事に自信を深めていく様子がしっかりと描き混まれていて,互いを必要な存在として認めていくまでの過程がすっきりと落ちてきます。
 病を受け入れ,その上で互いにもがき,苦しみながらも前進しようとする姿が,「真っ正面から」恋愛を描こうとしている七月さんの思いを透過させているように感じました。

 

病を癒やすもの,それは「愛すること」

 通常,ラノベの範疇であれば,主人公同士の恋愛沙汰で物語が終わることが多いでしょう。しかし本作はその点が決定的に異なります。
 仁も,陽も,陽の病の根源にあるものに気付いてクライマックスに向かいます。それは,「相手を愛する気持ち」です。

 仁の陽に対する真の愛情を媒介とし,仁の家族,陽の家族の我が子に対する愛情を知ることで,陽の心が緩やかに解放されていきます。そして互いの思いが通じ合ったとき…

 あとはご自分読んで確かめてみてください。心の底からほっとするエンディングがそこにあるはずです。

 

 もうひとつ「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」との相違点を。
 「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」では,物語の前半からその世界観に引き込まれ,高寿と愛美との切ない純愛の行方を見つめたように思います。

 しかし,本作は前中盤までは割と坦々とストーリーが進むのです。仁のカメラマンとしての仕事ぶりなど,外堀も丁寧に描かれます。しかし,中盤後半あたりから一気に2人の関係が深まるとともに本作の中心である「愛」というテーマの本質へと突き進んでいきます。

 密度が濃いのが「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」,物語の起伏があるのが「ぼくときみの半径にだけ届く魔法」とでもいいましょうか。
 どちらも甲乙付けがたい良作であることは事実です。そして,七月隆文の新境地としても捉えることのできる,「節目の作品」となるかもしれません。

 これ,きっと映画化されますよ。

ぼくときみの半径にだけ届く魔法

ぼくときみの半径にだけ届く魔法

 
ぼくは明日、昨日のきみとデートする (宝島社文庫)

ぼくは明日、昨日のきみとデートする (宝島社文庫)