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東野圭吾「クスノキの番人」レビュー〜家族の「念」の繋がりと,命の在り方・活かし方を考えさせられるファンタジー〜

「ヒューマニスティック」に振っている最近の東野作品

 東野圭吾さんの最新刊,「クスノキの番人」を読了しました。

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 そして考えさせられたのが,最近の東野さんの作風に関してです。
 個人的に,「東野作品の最高傑作の1つ」と感じた前作の「希望の糸」は,殺人事件を絡めながらも,「生命」「家族とのつながり」「自分自身の立ち位置」などをテーマとした,比重にヒューマニスティックな作品でした。 

 推理小説でありながら,謎解きよりも「人間の在り方」に重きを置いている点で,他の作家さんとは作風が異なっていると思いますし,東野さんの作風自体が大きく変化してきているように感じます。

 本作「クスノキの番人」にも,そんな東野さんの思いが色濃く出ています。
 本作に関しては「作家生活35周年」記念を謳っているようですが,恐らくは,「人間の本質について書いていきたい」という東野さんの思いの表れなのではないか…と受け止めているところです。

 

自身を覚醒させてくれる「家族」の念

 本作の主人公は「直井 玲人」。水商売をしていた母と不倫相手との間に誕生したことを知り,母が死んだ後は将来に何の展望もなく生きている。

 そんな折,「伯母」だと名乗る「柳澤 千舟」という女性から自らが管理している神社にある「クスノキ」の番人になるように言われるのだが,この「クスノキ」には「祈れば願いが叶う」という噂があり…。

 はじめは半信半疑で番人の仕事をこなす玲人だったが,クスノキに祈念しに訪れる人々の様々な事情に触れることになり…。

 という感じでストーリーは展開していきます。

 祈念する時期は,「満月」「新月」という2種類に別れており,同じ家族内であっても訪れる時期が異なっていたり,祈念をするクスノキの祠の中で奇妙なことが行われていたりと,「祈念が何のために行われるのか」ということや,「クスノキにはどんな不思議な力が宿っているのか」という部分が本作のキモとなっていきます。
 この部分に関しては完全なネタバレになってしまいますので,皆さんが読んで確かめてみてください。

 肝心なのは,祈念する人々にはそれぞれにのっぴきならない事情があるということ。それを叶えてくれるのが「クスノキ」であるわけです。
 その神聖なる儀式を守るために「番人」がおかれている…。
 ではなぜ千舟は,玲人に番人役を任せることになったのか? この点も最終場面で重大な意味をもつことになります。

 クスノキで行われる「祈念」については,総じて,生きている上での決定的な後悔や,自らの子どもや家族に対する命をかけた思いを授けたり,受け取ったりするする「手立て」として描かれます。
 伝えたくても言葉では伝えられないこと,生きている間には伝えきれなかった思いを,クスノキを介して受け取ることで,受け取った側の人々は,それ以降の人生の在り方について考えますし,念を送った側も,思いを成就させていくことになるわけです。

 そう…。
 この物語は,「念」を通して,家族や人間としての命の在り方・活かし方を問うファンタジーなのです。
 生きていく上で,とかく迷い,立ち止まってしまう私たち。
 そんなとき,家族からの思いを感じ取ることができたら,自信をもって歩を進めることができることも多いでしょう。人間関係が希薄になりがちな昨今にあって,東野さんはあえて「濃密な家族の繋がり」を描こうとしているのではないでしょうか?

 

若者の成長を描く

 本作のもうひとつの柱は,「若者の成長」ではないかと考えます。

 主人公である玲人は,半ば自暴自棄になっていたところでクスノキの番人の仕事に出会い,そこに訪れる人々の思いに触れ,千舟の真意を知ることで,人間として大きく成長していきます。

 他にも,祈念に訪れる父の行動の意味を確かめることで家族の思いを確かめていく「佐治 優美」,父が亡くなったことから会社の跡継ぎ問題にさらされている「大場 壮貴」という若者が,クスノキの関わる家族の思いを確かめることで,自らの迷いを断ち切り,自立に向けてお大きく前へ進んでいくことになります。

 親は子どものためを思い,子はその思いをしっかりと受け止めながら成長していく…。
 観念的に言ってしまえばそんな当たり前のことなのですが,日々の生活の中では,その思いを言葉で伝え合うことは非常に難しい面もはらんでいます。

 その仲介をしてくれるのが正に「クスノキ」。
 もしかすると東野さんは,我々一人一人が,本作で言うところの「クスノキ」のような存在を見つけることで,家族に対して素直になることができるのでは…という提案をしてくれているのかもしれません。

 現実離れした壮大なファンタジーではありますが,「ナミヤ雑貨店の奇跡」よりは自分の身に近く寄り添ってくれるようなストーリーになっていると感じました。
 生きていく上での精神的なパワーをもらえるような,ホッコリとした良作になっています。

 皆さんも是非,心を温めてみてください!

 

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