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住野よる「この気持ちもいつか忘れる」読了〜「囚われの心」に真正面から挑んだ力作! 住野ワールドの新たな局面を見た〜

「この気持ちもいつか忘れる」読了

 住野よるさんの最新作,「この気持ちもいつか忘れる」を読了しました。

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 以前に紹介記事を書きました。

 この中で,本作を「初の恋愛長編」と紹介されていたことに違和感を感じていたことを記しました。「君の膵臓をたべたい」だって,確かに異色ではありますが,恋愛小説だと捉えていたからです。

 確かに住野作品は,登場人物からしても高校生を中心とした若々しい世代が多く,描く世界も,「恋愛未満」の範疇における「自分探し」をテーマにしたものが多かったようには感じます。

 そう考えると,本作は登場人物の30歳までの軌跡を追っているという点や,最終的に「結婚」というゴールを見据えたストーリー展開になっていることも,これまでとは作風が異なります。

 しかし,これまでの作品との最大の違いは,
「一人の人間の価値観,恋愛観について極限まで追い込んでいる」
という点。熱量が違います。

 「住野ワールドの新たな局面を感じさせる力作」となっています。

 

「囚われの心」からの解放を描く

 前回の紹介記事にも書きましたが,本書の紹介文に,

「高校生男子と異世界女子の物語」

という記述があります。

 私はこれ,本作の50%しか表現できていないと感じました。
 確かに前半は,自分の人生はおろか,周囲の人間の生き様全てを否定しながら生きている男子高校生「カヤ」と,とあるバス停の待合室でであった異世界の少女「チカ」との淡い恋物語が描かれます。

 「カヤ」は「チカ」との関わりにのみ人生の意味を感じ,人生の「突風」を感じるひとときを過ごしますが,些細な嫉妬をきっかけに会えなくなり…。それ以降は正に「抜け殻」として,何にも意味を感じられないまま30歳まで過ごすことになります。

 ここまで読み進めると,「カヤ」の「囚われの心」をほぐしていく「チカ」とのファンタジーな物語…感じます。ただ,
「確かに"住野節"は生きている独特の表現で青年期特有の歪みを表現してるし,ファンタジー感をあおる書き方もさすが…」
とは感じるものの,正直,
「カヤの"心の歪み"と,チカの"癒やし"だけを描かれても,何も感じ取ることができない…」
と不安になってきます。

 しかし,本作の醍醐味は「チカ」が去った後半部分です。残り1/3の部分。
 「チカ」と合えなくなった「カヤ」は,全てに絶望し,「抜け殻」として生きていきます。そんなとき,偶然,高校時代のクラスメイト「斎藤さん」と出会うわけです。

 詳細は書きませんが,ここからの「抜け殻として斎藤さんと接するカヤ」「全てを打ち明け,ボロボロになるカヤ」「昔と今の自分の変化に気付き,斎藤さんとの繋がりの意味を感じ始めるカヤ」という流れが実に力強くて秀逸。
 これまでの住野作品で,一人の生き様をここまで深く掘り下げた作品はありませんでした。

 そして感じたのは,「チカ」との過去の思いでに囚われた「カヤ」の心情を描きながらも,後半の1/3の部分は,「カヤと斎藤さんの物語」になっているということです。
 そして,読了後に心に残ったのは,前半の「チカとの物語」ではなく,「カヤと斎藤さんが,カヤの"囚われの心"を解放しながら,わかり合っていく」という後半の物語です。

 単なる「ファンタジーもの」ではなく,「恋愛小説」とした意味が分かった気もしましたが,だとすれば本書の紹介文も「高校生男子と異世界女子の物語」とするのではなく,「チカや斎藤さんての関わりを通したカヤの心の再生」という意味合いを込めてもらいたかった…と強く思いました。
 紹介文を読むことで,「ファンタジーものだったら読まなくてもいい…」と,勘違いされるのがもったいないほどの良作ですので。

 

「この気持ちもいつか忘れる」の意味

 題名となっている「この気持ちもいつか忘れる」という言葉は,後半の「斎藤さん」との物語の中のキーワードとなって登場します。

 その事実を受け止め,自分の人生にどのような向き合おうとするのか…。是非最後まで読み進め,この言葉の意味を考えていただきたいと思います。

 個人的には,「斎藤さん」の生き様,考え方に非常に興味を持ちました。「カヤ」と「チカ」がクローズアップされがちな本作ですが,実は「斎藤さん」無しには成立しない作品となっていると感じます。

 最後に…。
 「斎藤さん」「田中さん」が,実は大きな伏線になっていることが,最後に明かされます。
 このあたり,さすが住野さん。大がかりなトラップも忘れていません。

 また,「チカ」が歌っていた歌の歌詞には,その言葉の意味以外にも,後半部で仕掛けが用意されています。

 最後の1ページまで飽きさせない,住野さんからの「玉手箱」のような作品に仕上がっています。是非読んでみてくださいね。