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住野よる「恋とそれとあと全部」レビュー〜心の裏表をえぐるジェットコースターラブストーリー〜

住野よる「恋とそれとあと全部」読了

 住野よるさんの最新刊、「恋とそれとあと全部」を読了しました。

 

 最近の住野よるさんは、「麦本三歩シリーズ」のようにゆったりとした文体の中に言葉遊びを詰め込んだ作品、「腹を割ったら血が出るだけさ」のように登場人物の心情に鋭すぎるくらい鋭くえぐった作品と、引き出しの多さを感じさせる執筆活動を展開させています。 

 

 最新刊の「恋とそれとあと全部」は、終盤まではデビュー作「君の膵臓をたべたい」のような緩さも含んだ「死」と「恋」を描く青春小説かと思っていましたが、最終盤にまさかの展開が待っていました。

 読み終えたときには完全に、
「"腹を割ったら…"のような鋭すぎるくらい鋭くえぐった…」
という印象をもつに至りました。

 

自分の「ずるさ」「悪さ」を認識して見えてくる相手への思い

 本作は、寄宿舎生活を送っている高校2年生の男女による、夏休み中四日間の物語です。

 主人公は「めえめえ(瀬戸洋平)」と「サブレ(鳩代司)」。めえめえはサブレを密かに思っているのですが、ある夏休みの日、サブレから、
「じいちゃんの家に行くんだけど、一緒に行かない?」
と誘われ、四日間の不思議な旅が始まります。

 

 サブレの旅の目的は「自殺した親戚の家族に話を聞きに行くこと」。何とも摩訶不思議な旅の目的に仰天するわけですが、なぜサブレがここにこだわるのかが、終盤で明かされます。

 そして、「死」に関連して、夜行バスで乗り合わせた乗客、じいちゃん、親戚の母娘がサブレやめえめえの心を刺激します。

 と、ここまでは「死」というネガティブなテーマを貫きながらも、サブレが自らの心を再生させていくための過程…ともとれるわけですが、住野さんの狙いはそこにあらず…。
 最終盤でめえめえとサブレが互いの心の最も深い部分をえぐり出すシーンを描くための長い序章に過ぎません。

 

 じいちゃんの異変をきっかけに事態は急変。
 めえめえとサブレがそれまで思っていても語れなかった思いをぶちまける展開が訪れます。まあ、これが互いの「ずるさ」「悪さ」をぶちまけ合う修羅場になるわけで…。

 しかし、ご安心あれ。
 最終的には住野作品には珍しく、すっきりとしたハッピーエンドへと…。

 

「あと全部」の意味

 サブレは、常に自由でありたいと考え、画一化を拒む女性として描かれます。
 また、「ごめん、めえめえ、言い直してもいい?」が口癖の細かいことにこだわる神経質な面を持ち合わせています。

 最終盤、めえめえは、サブレが自分と付き合うことがそんな自由なサブレの「翼を折る」ことになるのではないかと考えますが、それでも「付き合いたい」と初めて堂々と自分の本心を貫きます。

 それを受けたサブレの言葉。
「下宿仲間でクラスメイトで友達で恋人で、その全部でそのどれでもいい。たがいの悪さもひどさもめんどくささも全部連れて。めえめえと一緒にいたいと今、思っている。それが私の真剣に決めた自由で、放したくない不自由だ」

 

 ずるさも、悪さも含めて「全部」が好き。

 それを確かめるための四日間。

 是非皆さんも2人と一緒に旅してみてください。

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