読了後,吐き気がしました
久しぶりの湊さんの新作,しかも書き下ろしということで,本当に楽しみにしていました。「未来」。
物語の始まりは,いつもの通りドロドロとした粘着質のもの。これは想定内。
これでもか,というくらいの不幸の連続。まあ,これも想定内。
いつもであれば,ここから,何かしらの「希望」「明るさ」のようなものの兆しが見え始めて終末を迎えるんですよ。「復讐」「後悔」などをテーマとした暗いテーマの話でも。
ところが…。そのままゴールイン。
正直,読了後に吐き気がしました。これまで読書を続けてきて初めての経験です。こんなに読み味が悪かったのは本当に初めてです。
これが「湊ミステリーの集大成」?
本の帯には,
『「告白」から10年 湊ミステリーの集大成!』
という文章が…。
もし湊さん本人がこの文章を承知しているのだとすれば,是非問うてみたい。
「あなたの集大成とは何ですか?」
と。
はっきりいって,湊さんが何を訴えかけようとしているのかがわかりませんでした。それ以前に,この作品,
「ミステリーって呼べるものなのですか?」
と。
この作品,主人公「章子」の両親の抱える不幸な過去と現在を起点に,章子を支える教師や,章子と同じような悩みを抱える友人を巻き込みながらストーリーが進んでいきます。
印象が悪いのが,そのどの人生をとっても,「近親相姦」「精神崩壊」「家庭内暴力」「学校でのいじめ」「殺人」「放火」などのありえないほどの不幸の連鎖の中で描かれているということ。
最終的にも,これらの否定的な表現をひっくり返すほどの「何か」が起こり,いつもの「湊エンディング」を迎えるのだろうと期待して読み進めたのですが,今回は不幸のどん詰まりでのゴールとなりました。これでは吐き気ももよおすというもの…。
読み手に,これでもかというほどの不幸を押しつけて,湊さんは何を伝えたかったのでしょうか?
「告白」のように,ものすごくどぎつくて鋭いタッチで描かれたストーリーも,我が子を失った「復讐」という大義名分の上に書かれた人間模様として,新しいジャンルのミステリーとして非常に肯定的に受け止めた記憶があります。
しかし,本作「未来」は,ストーリーを下支えする「大義名分」も,「救い」も,それこそタイトルである「未来」に向けた希望もありません。一筋の光さえも…。
湊さんは,人生の中で起き得るであろう不幸を陳列することで,何を訴えたかったのでしょう?本当にわかりません。
「未来からの手紙」の浅さ
以前の記事でも紹介しましたが,今回の作品のキモとなるのは「10年後の未来の自分からの手紙」ということでした。
しかし,いざ読んでみると,その「手紙」の果たす意味合いが非常に浅く,がっかりさせられます。
ネタバレになりますので詳しくは書きませんが,「何それ?」というレベル。
また,作品にとってその「手紙」の必要感は?と考えると,「無くてもいいんじゃない?」とも思える程度で,主人公達の「救い」には全くなっていないのです。
逆に,終盤で手紙の正体を知った章子達にとって「絶望」すら感じさせる存在となってしまいます。
湊さんはこの「手紙」に何を託したのでしょうか?
「手紙」というキモとなるべき存在を浅く扱ってしまってしまいましたし,ストーリーとの絡みつけ具合を間違ってしまいました。
また,「未来」というタイトルも大失敗だと思います。だめです。このストーリーで「未来」はだめですよ。
湊さんに何が起こったか?
読了して,
「湊さんに何が起こったんだろう?」
と考えてしまいました。
また,
「今後の作品の方向性が心配…」
とも,
〇どんなに辛口でシャープなストーリーでも,一縷の希望をもたせる
〇人間の心の醜さを描きながらも,「こんなこともあり得るよな…」てどこかで読み手を納得させる余地を残す
〇それまでの全ての方向性を最後の一行で崩壊されるだけの意外性をもたせる
などといった,湊さんのよさを忘れないでいただきたい。
次作が勝負…。と,強く感じました。
湊さん,いきなり正念場ですよ!