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湊かなえ「人間標本」、雫井脩介「互換性の王子」 レビュー〜湊さん、やっちゃったなあ…〜

湊かなえ「人間標本」、雫井脩介「互換性の王子」 レビュー

 年末年始にかけて、湊かなえ「人間標本」、雫井脩介「互換性の王子」を読みました。

 

 

 「人間標本」は息も絶え絶えに何とか読了…。「互換性の王子」は正に一気読み…。

 湊さん、一体何を表現したいのでしょう?
 彼女の作品、もう読まなくてもいいかな…とも感じてしまいました。

 

湊さんの屈折、雫井さんの突破力

 湊さんの「人間標本」は、デビュー15周年の書き下ろし…という触れ込み。
 以前の「デビュー10周年」の「未来」に関しては、評価する声も多い中、本ブログでは以下のように酷評してしまいました。

 「未来」に関しては、ただドロドロとした救いのない出来事が重なるだけで、全く「希望」が見えてこない…という書きぶりに絶望を感じてしまいました。湊さんのそれまでの「イヤミス」の定義が崩れてしまった感覚だったわけです。

 

 そして今回の「人間標本」。前述の紹介記事にも、「猟奇的な内容でなければいいが…」と書きましたが、不安は的中。正に猟奇的な物語でした。

 まあ、少年達の猟奇殺人の犯人捜しの中に「イヤミス」的な要素は確かに含んでいます。真犯人辿り着くまでの過程と、主人公の生い立ちとの重なり合いは伏線としては見るものはあるのですが、ただ、内容があまりにグロすぎる…。

 そして、そのグロすぎる内容を描く割りには、この作品の存在価値のようなものが読者に届いて来ないのです。湊さんは一体何のためにこの作品を書いたのか? この作品を通して何を読者に伝えたかったのか?

 言葉はきついかもしれませんが、「作者の自慰行為」を見せつけられているような感覚に陥ってしまいました(不快に思われる方もいらっしゃるかと思いますが、悪意なく、そのように感じてしまったのです)。

 個人的には、「もう湊さんの作品は追わなくてもいいかな…」と感じてしまいました。

 

 対して雫井さんの「互換性の王子」は一気読み確定のビジネス小説となっています。

 異母兄弟同士の会社内での地位争い…という構図なのですが、それぞれの生い立ちから生じる「背負うもの」の違い、それぞれの社内の派閥内の人間関係、それぞれの恋愛感情等、様々な要素を取り入れたハートフルなヒューマンドラマとして描かれている一面もあり、緊張感の中に「爽やかさ」を感じます。

 「弟の"成功"が半年間監禁されるうちに兄の"実行"が部長に地位に就いており…」
という展開はあまりに強引だとは思いましたが、その後は反目し合いながらも互いの実力を認め合うようになっていく様を、破綻なく、疾走感を伴って表現しているあたり、さすがの雫井さんの筆力を感じました。

 

 ただ…。
 「乳製品飲料の開発」というビジネス要素も相まって非常におもしろいのですが、何だか「池井戸作品」の匂いを感じました。
 つまり、次々と困難が押し寄せてくるものの、努力の結果結局は万事丸く収まり、人間関係も最後にはうまくいく。また、悪役が存在し、最後には不正で自滅していく…。

 あまりにうまくいきすぎ…という流れが、正に「池井戸流」なんですよね。
 これまでの雫井さんであれば、どこかに悲しい結末があったりして物語全体の調和をとっていたと思うのですが、今回は…。もうちょっとスパイスを効かせる部分があってもよかったかな…とは感じます。

 ただ、内容自体は素晴らしい。このままドラマ化もできそうな感じです(そのあたりも池井戸臭がしますが…)。

 

 「犯人に告ぐシリーズ」「霧をはらう」等、雫井さんの書く重厚な作品が大好きです(クロコダイル・ティアーズのような"あれっ?"という作品もありますが…)。今回は飲料水メーカーが舞台でしたが、今後も様々な舞台での緊張感ある作品を届けてくれることを期待したい作家さんです!

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