「AH-D9200」がダメだったら「K872」では?
先日まで,【Denon「AH-D9200」+ TEAC「UD-505」で感動は得られるか?】と題して,据え置きDAC+ヘッドホンによる音探しの経緯をお伝えしてきました。
結果として,「AH-D9200」の超高性能は認めるものの,ボーカル中心に聴く私としては,どうしても音のバランスに納得できない…ということになりました。音の情報量が多すぎるが故に,どうしてもボーカル帯の中音域に他領域が「邪魔」をしてくる印象。また,奥行き感が薄いため,立体感に乏しい音場も,私には合わなかったということです。
私がクラシックを聴くような高尚な耳をもっていたら,当然状況は変わってきたことでしょう。
さて…。
「クリアなボーカル帯」を求めることを第一前提として考えた際に候補にしたのが,以前開放型の下位機種を使用していた際に好印象のあった「AKG」です。
その最上位機種となる「K872-Y3」に最後の望みをかけてみました!
箱もケースもデカすぎる… AH-D9200よりもチープな感じ?
まずもって,届いた箱の大きさにびっくり!
容積的には「AH-D9200」の2倍はあります。開封するとその謎が解けました。必要以上に大きく頑丈な専用キャリングケースが付いているのです。
いやいや,このケースに入れて持ち運ぼうとは思わないのでは…?
余計なところに金をかけるのだったら,その分安くしてくれ…と思うのは私だけではないはず。そう考えてしまうほどの華美な同梱品です。
その割に,本体はチープな印象。とても10万超えのヘッドホンとは思えないほど。
イヤーパッドの革素材は悪くありませんが,それでもAH-D9200の質感と比べると…。まあ,向こうはより格上の価格設定ですので,しょうがありませんが。
その他もプラスチッキーな印象が拭えないのも,チープ感に繋がっているとは思いますが,「軽く」仕上げるためには妥協が必要というところでしょうか?
まあ,ドイツの製品らしく,「質をとる」という考え方かもしれません。だったらあのケースは要らない…となおさら思ってしまうのはご愛敬。
ヘッドバンド部は,二重構造になっているAKG独自のデザインですね。
付け心地は可も無く不可も無く…という感じですが,可動範囲が広かったAH-D9200と比較すると不利なのは否めません。AKGのフラッグシップということであれば,このあたりの使い勝手に関しては,より追求してもらいたいところです。
そして…。
その形状と付け心地に驚くのが,イヤーパッド。
耳をすっぽりと覆うアラウンドイヤータイプとなっており,AKGは,
耳の裏側に接する面積を増やした立体構造に加えて,耳の周囲と接する面の形状を保持する3Dスローリテンション技術を採用。頭部側面への圧迫を軽減しながら心地よく密着。また,吸湿性と保湿性に優れた本革のような質感の機能素材「プロテインレザー」を使用しており,イヤーパッド内部の湿度を適度に保持
と説明しています。
その形状がこちら。
ちょっとグロテスクともいえるデザイン。エッジ部分が切り立っていて,「耳全体の上にかぶせる」という感じ。通常の「覆う」という感覚とは全く異なります。装着感も,慣れるまでは何だか落ち着きません。エッジ部分が痛いということはないのですが…。
しかし,のちのち,この「かぶせ方」が音質に深く関わってくることが分かります。
中音がしっかり主張する元気な音! しかし軽い…
早速,取って出しの音を聴いてみました。
前回の「AH-D9200」では,どうしてもクリアな中音域と雰囲気のある奥行き感に辿り着けなかったということで,まずはその音傾向に注目しながらの初聴きです。
まずもって感じるのは,「AH-D9200」よりもしっかりと中音域のボーカル帯が聴こえるということ。AKGの元気な音が健在…と感じるように,明るい音が響きます。
低音は,やや弱いですね。はっきりと「中・低音域に振っている」というのが分かります。しかし,低音の質は悪くないと感じました。「AH-D9200」は低音の量が非常に大きいとともに,ぼわつき,芯のないという音傾向が悪さをしていました。しかし,「K872」は,デフォルトでは弱さも感じるものの,芯はしっかりとしており,
「エージングとイコライザーの調整で何とかなるのでは…?」
と感じるものです。
反面,ちょっと意外だったのは,「中・高音寄り」の音傾向ではあるものの,上方向の「伸び」にやや詰まりを感じた点です。これが,エージングで解消されるものなのか,それとも本機の特徴なのか?
これ,大きな問題となりそうです。
音場は非常に独特。
先に述べた,耳にかぶせる「アラウンドイヤータイプ」のイヤーパッド形状により,
「自分を中心に,一定の距離の同心円状の空間が広がり,その外側から音が聞こえてくるような鳴り方」
をします。伝わりますかね?
ともすると,特に左右の音やボーカルが,やけに耳に近い場所から聴こえてくることが多い昨今のヘッドホン,イヤホンですが,本機は一定の距離を置いて鳴るように聴こえるため,不自然な「音の密着感」がありません。
また,左右はもちろん,奥行き感もしっかりと感じられるとともに,双方が同心円状の距離感で伝わってきます。「左右だけが近い」「奥行き感がない」「ボーカルが遠い,近い」などというように,要素別に聴こえを語らなくてもいいような音場感です。
エージング前は,低音の量と高音の伸びがいまいちですので,ややバランスが悪い感じがしますが,今後はどのように変化するのか?
これが良い塩梅で調和するようであれば,一気に好みの音質になりそうな予感もします。
また,もうひとつの重要な判断材料は,「音の軽さ」。
中・高音よりフラットという感じなのですが,これまでの要素が合わさることで,全体的に「音が軽い」と感じます。重厚感が薄いというか…。いくら中・高音より…とはいえ,ある程度の低音の厚みは絶対に必要。現在のままの軽さで行くと,いくら何でも…という印象ですので,ここは重要です。
「芯はある」低音ですので,こちらもエージング次第というところか?
次回,AH-D9200と同様荷に30時間以上のエージングをして,音の変化を掴んでいきたいと思います。順調に「育って」くれればいいのですが…。