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三上延「ビブリア古書堂の事件手帖IV ~扉子たちと継がれる道~」レビュー〜栞子の父、登の物語〜

三上延「ビブリア古書堂の事件手帖IV ~扉子たちと継がれる道~」レビュー

 三上延さんの最新刊、「ビブリア古書堂の事件手帖IV ~扉子たちと継がれる道~」を読了しました。

 

 読了後感じたのが、

「こんな隠し球を用意していたのか…」

ということ。

 

 その隠し球とは、栞子の父である「篠川 登」です。

 そもそもが、この「Ⅳ」の表紙には「智恵子」「栞子」「扉子」という篠原家の女性3人が描かれており、「令和編」「昭和編」「平成編」という構成でストーリーが展開することはお伝えしていました。

 

 当然読み手としては、「智恵子」「栞子」「扉子」中心の物語であると予想しますし、まあそれ自体は「シーズン2」に突入したときから織り込み済みではあるわけです。

 その上で、このシーズン2では、栞子の夫である大輔の、そして栞子の母である智恵子の「備忘録」として語られる…という形でストーリーが展開していくという、正に「篠川家のタイムトリップ」的な描かれ方をしています。

 以前のレビューでも、時代を跨いでストーリーを生み出すことができるという意味で、「三上さんはとんでもないお宝を手に入れた…」と評しました。

 

 その上で…。
 今回は、
「テーマとなる"鎌倉文庫"を中心に、親子三代の時の流れの中でストーリーが進んでいくのだな」
と予想していたわけです。

 「親子三代の時の流れの中で…」という点は間違いなかったのですが、その「中心」が隠し球。

 

 今回の「扉子たちと継がれる道」の主人公は、ある意味「篠川 登」です。
 「扉子たち…」と、これまでの「扉子と…」と敢えて副題を変えてきたのには、「継がれる道」を、栞子の父としての目線として描く(登の備忘録として)…という意味が込められているように感じました。
 実際に、エピローグの部分では、智恵子が登がしたためた備忘録を持参するシーンも描かれています。

 多様な人物を登場させながら物語に深みを与えつつ、頑ななまでに「備忘録から語る」という方針を貫こうとする三上さんの信念に震えます。

 

栞子の父、登の物語

 ストーリー自体は、戦中・戦後の「鎌倉文庫」の行方捜し。その蔵書の行方や行方捜しに篠川家三代が密接に関わってくる…というそれこそ「時を跨いだ壮大なミステリー」となっています。

 

 自分が鎌倉文庫を所有していた…と主張する認知症を患う老人や、学が無い自分を馬鹿にした奴らを見返すために鎌倉文庫の本を手に入れたいと執念を燃やす成金らが時を跨ぐ形で登場し、それぞれ「智恵子」「栞子」「扉子」と関わっていく…という展開は、非常にダイナミックであり、ストーリーの破綻もなく、三上さんの練りに練った文章の密度感のようなものを感じます。

 力作です。

 

 しかし、主人公は「登」でしょう。
 これまで、シーズン1を通しても、智恵子の夫であり栞子の父であった登のことが多く語られたことはありませんでした。

 ところが今回は、智恵子とのなれそめ、智恵子との別れ、栞子や文香との関わり方等、登がどのような人物であり、智恵子のどこに惹かれたのかまでもしっかりと描かれています。

 また、登の目を通して、智恵子と栞子の高校時代が描かれており、容姿や本に関する知識の豊富さという共通部分以外に、人となりの相違まで描いていたことは非常に興味深くもありました。

 智恵子と栞子は一定の和解はしたものの、以前わだかまりは残っている…という設定です。
 しかし、その裏には双方に愛を注いだ登の存在があったのだ…ということは、今後のシリーズ展開の重みをもたらしそうです。

 加えて、「智恵子」「栞子」「扉子」の高校時代という時間軸をテーマにして書かれていることも、ここまでのシリーズの積み重ねがあって初めて可能になることですので、読み応えがありましたね。

 

 とにかく、三上さんの「引き出しの多さ」には舌を巻きます。
 これだけ、時代を跨いだ篠川家の紆余曲折を描きながらも、当然ながら書籍に関するミステリーの質が非常に高いことも驚きです。篠川家の動向が陳腐なものにならない、重厚な謎解きがあるんですよね…。

 さて、次作「Ⅴ」はどのような切り口で来るのか…。
 今から非常に楽しみです。

 

 あっ、文中の時跨ぎの面白さを一つご紹介。

 「平成編」の中で、栞子の妹である文香が雨で濡れないように傘を差しかけてあげている男子中学生が描かれています。この後、登がやってきて別れることになるのですが、勘のいい方はもうお気づきですね。
 そう、後にビブリア古書堂でバイトとして働き、栞子さんと恋に落ちる「五浦 大輔」です。

 何と、大輔は、栞子の父である登と出会い、会話までしている…という衝撃の事実!

 そして…。
 二人を迎えに来た栞子さんと道ですれ違う…というニアミスまで起こしているのです。

 

 当然後付けではありますが、こんな些細な三上さんの遊び心が非常に嬉しく感じられました。ビブリアフリークにとっては非常にエモい部分。

 是非とも読んでみてください。

 

 ビブリアシリーズのご新規さんは、あまりにもこれまでのシリーズの内容をベースに進むことが多くなってしまっているので、シリーズ1の最初から読むことを強く強くお薦めします。

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