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東野圭吾「沈黙のパレード」レビュー〜鈍重な前半も,終盤のどんでん返しには息をのむ!〜

「ガリレオシリーズ」の最新刊

 東野圭吾さんの鉄板のひとつ,「ガリレオシリーズ」の最新刊である「沈黙のパレード」を読了しました。

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 発売前の説明書きに,
「今度の相手は街の人たち全員だ。」
とあったため,

 複数の動機をもつ犯人達が,結託して被害者の殺人計画を練ったということか?

 しかも恐らく,その動機に至るまでの多様な経緯が,相当に混み合い,絡み合いながら「1つの殺人」に向かっていってしまうのでは…。

などと,勝手に妄想する記事を以前アップしていました。 

 結果としては完全な「ビンゴ」ではないにしても,かなりいい線はいっていたというところ。

 しかし,完全に予想を裏切られたのが最終盤の真相。
 これまでの東野作品にはない,異例の「大どんでん返し」が待っていました。

 

「科学的要素」はかなり控えめ,「動機」「人間関係」に重点

 さて,そもそもガリレオシリーズといえば,物理学者の湯川が,その専門的な知識を活用しながら推理を進めていく部分が醍醐味ですね。

 また,前掲の記事内では,
「短編は科学的要素をふんだんに,長編は本格推理ものに振る傾向がある」
という個人的分析についても書かせていただきました。

 

 本作は正にその「長編」らしい,本格推理ものになっています。

 ネタバレになりますので多くは書きませんが,本作に登場する科学的要素といえば,ヘリウムガスと液体窒素の下りだけ。
 しかも,本作の「キモ」からすれば,それらのトリックも,はっきり言ってどうでもいい問題です。

 そのように断じていいほど,本作は「事件に関わる人間模様」に主眼が置かれているのです。
 これまでの「容疑者Xの献身」「聖女の救済」「真夏の方程式」といった長編と比べても,「科学的要素」「トリックの重要性」の重みはかなり低くなっています。

 

 私はとても好ましいものとしてこの東野さんの決断を支持します。
 やはり東野さんの長編は,「本格的」であってほしい。特に,このガリレオシリーズと新参者シリーズにおいては,重厚な人間模様を描いて欲しいと以前から考えていましたので…。

 

前半はやや鈍重か? しかし,それは東野さんの計算?

 物語の前半はやや鈍重な印象を受けます。

 殺人事件の「動機」をもつ人物がたくさん登場し,それらの人物が協力し合う…という展開は,「オリエント急行殺人事件」を思い起こさせます。恐らく殆どの読者が,
「ストーリーとしてはありがちだな…」
と感じながら読み進めるはず。

 しかし,後半にかけてその「互いにアリバイを補完し合う」という方程式が崩れ始めることで,
「あれっ,様子が変だぞ?」
と感じる始めるはず。

 

 そう,まさか東野さんともあろう方が,周知の名作どおりにストーリーを展開させるはずがないわけです。

 この部分,東野さんは計算していたんじゃないですかね?
「きっと読者は,オリエント急行殺人事件を想像するはずだ…」
と。

 もうこの時点で,我々は引っかかってしまっているということです。
 そして,この鈍重ともいえる前半の坦々とした進み方自体が,最終盤への伏線になっているのだと,読了してから気付かされるのです。

 いや〜,今回はやられました。

 

そして,急転直下の「どんでん返し」

 そして最終盤の「どんでん返し」が待っています。

 誰もが「これで終わりだ…」と考えた後に…。

 恐らく真犯人に気付きながらここまで辿り着ける人はいないのではないでしょうか?
 そのくらい意外な最終盤が待っています。

 

 過去の事件との底知れぬ繋がり,事件に対する様々な人間の様々な思い,図太く描かれた犯人像,そして事件に対する警察側の思い…。

 全てが綿密に組み合わされることで成立する今回のストーリー。

 1人の人間の思いを突き詰めた「重厚さ」というよりは,人々の思いの「多様性」を重視して描かれている点で,東野作品の新境地ともいえる仕上がりになっていると考えます。

 

 最近の長編では,トリック解明における「お手盛り感」「ご都合主義」が目立っていた東野さんですが,今回は「会心の作」となったのではないでしょうか? 

 

 お薦めできる良作に仕上がっています。 

沈黙のパレード

沈黙のパレード

 

 

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