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夏川草介「スピノザの診察室」レビュー〜「地域病院の敏腕医師」という設定が面白みを増す〜

夏川草介「スピノザの診察室」読了

 夏川壮介さんの最新刊「スピノザの診察室」を読了しました。

 

 現役の医師でもある夏川さんの代表作といえば「神様のカルテ」です。
 こちらはシリーズ化されるとともに、「新章」へと突入していますね。そういえば、こちらの続編がしばらく出ていませんね…。そろそろ…。

 

 この神様のカルテシリーズの主人公である「一止」は、地域病院に勤務する中堅医師として描かれ、患者の命と真正面から向き合う朴訥さが魅力的な人物です。

 新作の「スピノザの診察室」の舞台は京都。そして、主人公「雄町哲郎」も一止同様に地域病院に勤務し、主に老人医療を中心に「死」と直接向き合っています。

 患者に対する生真面目な応対という点では共通点があり、ストーリー的にも人の生死を飄々と描いていることもあって、同じような展開かと思いきや、両作には決定的な違いがあります。

 

 それは、「雄町哲郎」がかつては大学病院に勤務していた敏腕の「内視鏡使い」であるということ。
 そして、そのしがらみから再度その辣腕を振るうことになる…というドラマチックな展開が用意されてるという点において、「神様シリーズ」とは全く異なったジャンルを切り開こうとしているのがよく分かります。

 非常に優れた良作になっています!

 

エンタメ要素が加わって

 妹の死により、甥っ子を引き取らなくてはならなくなった哲郎は、大学病院勤務を諦め、「原田病院」へと移ってきます。

 原田病院には当然キャラの濃い医師たちが勢ぞろいし、丁々発止のやり取りが…。その描き方は神様シリーズ同様です。ここに甥っ子の成長がかかわってくることで、人情味あふれる物語が成立します。「夏川節」とも言える重厚で読みごたえのある人間模様は相変わらずです。

 

 そして、往診に向かう先には余命いくばくともない老人たち。もちろん病院内の患者もほとんどが老人。そして、運ばれてくる訳ありの患者たち。
 神様のカルテに登場する患者以上により身近で、現代的な問題をはらんだ描き方がされており、夏川さんの視野の広がりを完治されます。

 そして、随所に盛り込まれる「京都」の自然、行事、甘味の風情が、独特の空気感を漂わせるのです。

 その一つ一つの要素が物語全体でしっかりと融合し、ひとつの世界観を形成していることに驚かされます。神様シリーズの前半で感じたような文章の荒さのようなものは微塵も感じさせない夏川さんの筆力に脱帽です。

 

 そして…。
 大学病院時代の信頼すべき先輩医師との繋がりから物語はクライマックスを迎え、哲郎の「敏腕医師」たる所以が発揮されることで、ストーリーに緊張感が与えられています。この部分は神様シリーズには無かった要素。私は新機軸として「あり」かな…と思いましたが、もしかすると、夏川さんの文章にこのようなドラマチックな展開は必要ない…と考える方もいるかもしれません。
 ただ、ひとつの作品としてみたときに、非常に効果的なアクセントにはなっていることは事実です。

 また、この大学病院関連の中で、哲郎の意思としての姿勢に憧れを持つようになる若手女性医師も登場し、今後の展開が楽しみな要素もありました。

 

 これは、是非とも続編をお願いしたいところです。

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